大沢たかお、王騎は『キングダム』の象徴 人気キャラ演じる葛藤を語る
原泰久の傑作コミック「キングダム」が実写映画化されるという情報が明らかになった際、主人公の信やエイ政と共に、キャスティングが大きく注目された王騎将軍。大人気キャラクターを演じることとなった大沢たかおは「不安しかなかった」と率直な胸の内を明かしたが、いったいどんなアプローチ方法を試みたのだろうか。
「みんなが好きな漫画キャラクターを演じるのはすごくやりづらいんですよ」と苦笑いを浮かべた大沢。圧倒的な強さと超個性的なビジュアル、器の大きさなど、王騎将軍は熱狂的なファンが多いキャラクターだ。「体つきや顔も含め、現実にいない、漫画だから成立するような人物。最初はどのように入っていこうか迷いはありました。現場では常に恐怖との戦いでした」
そんな大沢の助けとなったのが佐藤信介監督を含めたスタッフや共演者の熱意だ。「現場にいる全員が『キングダム』のファンに喜んでもらいたいという思いのもと、本気になって戦っていた。何度もカメラテストをやり、衣装もメイクも何パターンも試しました。迷いや不安はありましたが、いろいろな力が交わって、王騎将軍ができたと思うんです」
大沢の言葉通り、一流の人々の英知を結集して命を吹き込まれた王騎将軍は、スクリーンで圧倒的な存在感を見せる。大沢は「王騎というのは、主人公ではないのですが『キングダム』という物語の象徴的な存在だと思うんです。登場シーンはそれほどないのですが、映画のシンボルとして、皆さんに映ればいいなと思って演じていました。一つ大切にしたことは、彼は“秦の怪鳥”と言われていますが、大空からこの戦国時代をどのように見ていたのだろうか、という視点は自分の身体を使って表現したいと思っていました」と狙いを語る。
信役の山崎賢人やエイ政役の吉沢亮など若い力が集まった撮影現場。大沢は「若手、ベテランという括りは関係なく、映画の成功のために、みんな同じ土俵で戦うという意識がいないといけない」と語る。大沢自身も身体づくりを含め、かなり前から準備は怠らなかった。「まずは自分が突っ走らないと」という強い思いを持っていた。大沢が前のめりで突っ込むことにより、他の若い俳優たちも入りやすくなる。「口で説明するのではなく、本気で向き合えば、才能ある真面目な若い俳優さんたちは理解ができる」という信頼関係のもと、思う存分突っ走ることができた撮影現場だったという。
中国ロケは過酷を極めた。闘いのシーンも普通なら5~10頭程度の馬で、あとはCGというのが定番だが、本作では100頭近くの馬を用意し、草原を全速力で駆け抜けるというスケール感は圧倒的だ。途中、落馬する人もいたというがカットがかかることはない。初日からこうした撮影を目の当たりにした大沢は「キャラクター作りに対する不安など言っていられない」と役柄に没頭できた。
とは言え、王騎将軍というキャラクターは、あまりにも独創的だ。特に原作での「コココココ」という笑い方は読者に強烈な印象を与えた。「実写化するうえで、一番難易度の高い部分の一つでしたね」と大沢自身も自覚していたという。「女性らしくなってしまったり、一歩間違えると変質者みたいにも聞こえてしまう。いろいろなパターンをテストしながら試行錯誤した部分です」
「和気あいあいとしながらも、みんなが役柄にフォーカスしていたすごい現場だった」と共演者に賛辞を送った大沢。その世界観の象徴として登場する王騎将軍。その姿を大スクリーンで堪能したい。(山崎賢人の「崎」は「たつさき」が正式表記)(取材・文:磯部正和)