『リング』から21年…中田秀夫監督が貫くCGに頼らない恐怖表現
「はっきりと、ここで映画監督として世に出なければどこで出るんだ、そう自分に言い聞かせていました」と回想するのは、1998年公開の映画『リング』で興行収入20億円のヒットを記録し、今や世界的なホラー映画の鬼才として名をはせる中田秀夫監督。最新作『貞子』(5月24日公開)でハリウッド版『ザ・リング2』以来、約14年ぶりに同シリーズのメガホンをとる中田監督が、その重責、そして今もなお追求する恐怖描写について明かした。
「観た者は1週間後に死ぬ」という呪いのビデオの恐怖を描く鈴木光司の小説に基づく『リング』で大ヒットを飛ばしたのち、続編の『リング2』(1999)では倍の興収42億円を記録。2002年にはハリウッドでリメイクされ、その続編『ザ・リング2』(2005)では中田が自ら監督を務め、ナオミ・ワッツ、シシー・スペイセクら名だたる女優陣を演出した。新作の『貞子』は、池田エライザ演じる心理カウンセラーの視点から、シリーズの顔である怨霊・貞子の恐怖を、SNSや動画などを日常的なツールとして用いる現代に向けて描く。
14年ぶりにシリーズに着手するにあたり、「一言で言えば2019年にお客さんに受け入れられるホラー表現を追求すること、それがモチベーションになった」と中田監督。『リング』に続いて『仄暗い水の底から』(2002)も2005年にリメイクされ、日本のみならず海外にも影響を与えてきた中田監督だが、自身は「別にホラー映画が好きというわけではない」という。「すごくかっこつけて言えばホラーというジャンルに魅入られてしまったというか。ホラーが得意だと思われて、日本でもアメリカでもオファーされてきましたが、自分をホラー・マニアと思ったことはない。ただ、もともと職人気質なので今お客さんに受け入れられるホラー表現は何だろうと考えること自体は好きなんです」
『貞子』では、今の観客に受け入れられる表現の例として「動画」を恐怖のツールとして用いていることが挙げられる。これまで手掛けた3作では「呪いのビデオ」が登場していたがソフトよりも動画配信が主流になりつつある現代をふまえ、本作では「呪いの動画」に変更している。「20年前には、『リング』を観た子供たちが夜になるとついていないテレビが怖いと言ってくれたりもしましたが、今回はビデオテープは使いませんでした。今は、誰でも動画を撮る時代。特に人に見せるわけでもなく、日常的に家族や身近な人を撮ったりしますよね」
また、シリーズから14年離れていたことで「いい距離感ができた」のは、監督にとって良い結果になったようだ。「『リング』は(長編監督デビュー作の)『女優霊』(1996)とは格段に予算も公開規模も違っていて、成功させるために神経をとがらせ、ホラー表現のみならず一つ一つの表現に『これじゃなきゃダメだ!』というものを追求していました。当時サード助監督だった佐伯竜一も『あの時の中田さんは本当に怖かった』と。ハリウッド版『ザ・リング2』の時には前作から時間がそう経っていなかったので自己摸倣に陥るジレンマもありました。その時の苦労もあって、今はそこまでピリピリするようなことはありませんが、同じことの模倣であってはいけないという考えは常にあります」
『リング』シリーズ後、東宝、松竹など大手映画会社のもとでビッグバジェットの作品を多く手掛けてきているが、予算が増えたからといってその分怖いシーンができるとは限らない。新作『貞子』のラストシーンでは、当初台本にあったCGを用いた恐怖描写をとりやめ、今作のチーフ助監督となった佐伯の『もっと小学生がちびるような終わり方の方が絶対いいですよ!』という意見のもと、ごくシンプルな手法でショッキングな演出を目指した。
そのシーンではハリウッド版『ザ・リング2』での反省をふまえたところもあり、「例えば、水の塊が(日本版の貞子にあたる)サマラになるようなCGの表現はもうやったし、正直自分でもあまり怖いと思わなかった。ちょっと技術が勝ちすぎるというか、CGを多用しすぎる表現はお客さんがしらけてしまうのではないかと。日本の、Jホラーの良さというのはお金がないなかで知恵を絞って工夫をしてやってきたことにあって、今回もそこは踏襲しました」と中田監督。そう語る通り、ラストシーンでは「その手があったか!」と思わされる、身の毛もよだつ恐怖を味わうこととなる。(取材・文:編集部 石井百合子)