原点は『渇き。』小松菜奈が映画を選び続けるワケ
スクリーンで圧倒的な存在感を放つ女優・小松菜奈。そのキャリアを振り返ると、4本のドラマ出演に対し映画は17本と、同世代の女優のなかでも飛びぬけて映画への出演を重視しているようにみえる。どうして小松は映画を選び続けるのか、その理由を本人に聞いた。
中島哲也監督の『渇き。』(2014)で鮮烈な長編映画デビューを飾った小松。同作から本格的な女優人生がスタートしたことは、彼女にとって大きな意味を持つようで、「『渇き。』から始まったので、映画の時間のかけ方や現場とかが自分に合っててすごく好きなんです」と映画を選び続ける理由を明かす。
「スタッフさんも映画が好きな人が集まっているので、映画愛みたいなものが(現場には)あって、それが純粋に好きです。もちろんドラマはドラマで魅力があるし、映画は映画で魅力がある。どっちがいいというよりは、私は映画が好きで、映画が特別。違う現場に行ったらその前の現場の人と一緒だったとか、映画愛を持った人たちとやると、家族みたいな感じになれる。それってドラマの現場でもまた違った形であると思うんですけど、できることなら映画だけでやっていきたいなと思うぐらい、やっぱり映画が好きですね」
『渇き。』の当時は「何もできないところから始まって、それこそインタビューも『何を言えばいいんですか?』みたいな感じ(笑)」だったという。それから5年の間に、マーティン・スコセッシ監督の『沈黙 -サイレンス-』(2017)でハリウッドデビューを果たし、『来る』(2018)では再び中島監督とタッグを組むなど、女優の階段を順調に駆け上がっている小松。経験を積んでいくなかで演じることの楽しさを覚え、女優という職業への愛情も強くなった。
「最初は感情をフルに出さない、影のある役が多かったんですが、人間味がある役を演じていくなかで、自分でも考えてお芝居をして、ちゃんとその気持ちになれた瞬間があったんです。その時に気持ちいいというか、生きてるなというか、そういう感覚があって。やめられなくなる感じはこれなんだなと思いました。いつもそこに苦しさの壁はあるんですけど、そこを乗り越えたらまた違うものが見えるかもと思いながら役を演じていて。色んな役をさせていただいているので、それが自分のなかでもっともっと頑張らなきゃと思えるきっかけでもあります」
今、彼女の前には「女優に向いてないかも」と思うほど何もわからなかった5年前とは、まったく違う景色が広がっている。「わたしはゼロから始まって地道にやっていくタイプ。地道にやっていかないと合わない性格なんだなと自分でも思いました。今は女優さんとして頑張りたいですし、最初のときの気持ちとはまた違って。すべての景色が変わりましたね」
『どろろ』『害虫』などの塩田明彦監督が、ギターデュオ“ハルレオ”の解散ツアーの道のりを描き出した最新作『さよならくちびる』では、美しくて自由奔放なレオを演じ、歌とギターにも初挑戦した。同年代の女優・門脇麦と“ハルレオ”として息を合わせた本作は、もともと『女の子ものがたり』や『花とアリス』『blue』といったガールズムービーが好きだった小松にとって念願の作品だ。
「今回女の子2人が中心のお話だったので、夢が叶いました。しかも麦ちゃんとの共演。麦ちゃんとは全然お芝居の作り方が真逆だなと思っていて。麦ちゃんは監督に聞いていくタイプで、私はあんまり質問せずにとりあえずやってみようっていう感覚的なタイプ。全然違ったので、『そういう入り方もあるんだな』と勉強になりました。同世代とお芝居をすると色んなエネルギーをもらえます。いい意味でライバルというか、お互いが高め合っていける関係性だったので、すごくいい現場でした」
『さよならくちびる』をはじめ、今後も11月公開の『閉鎖病棟(仮題)』、2020年初夏公開の『さくら』と、小松のスクリーンでの快進撃はまだまだ続きそうだ。(編集部・吉田唯)
映画『さよならくちびる』は5月31日より公開