監督もFFプレイヤーだからこそ…『光のお父さん』ゲームパートの挑戦
大人気ゲーム・ファイナルファンタジーXIVを通じて絆を深めていく父子の姿を、ゲームの中の世界である“エオルゼアパート”と実写パートを交錯させて描き出す『劇場版 ファイナルファンタジーXIV 光のお父さん』。革新的な方法でエオルゼアパートを手掛けた山本清史監督が、「ゲームをやっているなかでは観たことない映像を作る」という思いで挑んだ制作の裏側を語った。
■斬新!ゲームの世界でキャラクターを演じる手法
累計アクセス数1,000万超えのゲームプレイブログ「一撃確殺SS日記」の人気連載を基にした本作。山本監督は2017年のドラマ版でも同パートを担当したが、監督や原作者のマイディーたちが実際のゲームでキャラクターたちを動かし、俳優やCGの代わりにそのキャラクターたちがシーンを演じるという他に類を見ない手法は当時大きな話題を呼んだ。
その方法はこの映画版でも継承している。しかし、実際に多くのプレイヤーがゲームをしている“公開サーバー”を使ったドラマ版とは違い、今回は映画撮影用にスクウェア・エニックスから開発サーバーと同等の環境が提供された。山本監督たちは、そこに自分のキャラクターを作り、ゲーム内の撮影環境を整えるところからスタートした。
それらの準備にはかなりの時間を要したそうで、山本監督は「シナリオを読み解いてこの時の服はこれだよね、あれ靴がない、髪型こうだっけとか(笑)そこから全部やっていくので最初が大変でした」と笑顔で苦労を振り返る。
「ゲームの中で映画を撮るっていうのはある種無謀というか、大丈夫? 本当にいけるかなって思いも若干あるんですよ(笑)。僕とマイディーさんのなかではこのゲームパートは主人公のアキオの脳内イメージなので、なるべく人間的な動きというか人間的な表情やお芝居みたいなのをやりたいね、という思いがありました。なので、突然動いたりするゲームっぽい動きをせずに、表情も徐々に変化していく、そういうところを意識しましたね。CGでもできるけどゲームでできるのそれ? というところに挑みました」
■自身もプレイヤーだからこそ…山本監督の挑戦
戦闘シーンで縦横無尽に動くカメラはまるでアクション映画のような迫力があり、ドラマ版よりも映像がパワーアップしていることは一目瞭然だ。「当然ドラマとは違うカメラワークも想定していた」という山本監督だが、思い描く映像をゲームの機能の範囲で実現するための方法は、実際に操作してみて発見していったという。
「開発サーバーと同等の環境で撮影することによって、歩くスピードや天気も変えられ、ある種なんでもできちゃう。歩くスピードを変えたらカメラのスピードが速くなるわけです。ってことは、キャラクターが走っていくところに並走したりもできるし、後ろから追い越して回り込むこともできるなと思って。そうやっているうちに、いろいろ欲が出てきてしまって、めちゃくちゃ早く動きながら回るみたいなことを延々とやっていました(笑)」
さらに、今回の映画化にあたって山本監督は「今まで僕らがゲームをやっているなかでは観たことない映像を作る」という挑戦を自身に課していた。そのチャレンジが可能になったのは、フレームレート(※映像の滑らかさに関わる数値。大きいほど滑らかな映像になる)の変更が大きく関係している。
「通常の映画は24フレームなんですね。今回は一部60フレームもあるんですが基本120フレームで撮っていて、それによってスローモーションが5倍でできるんですよ。どんなに手練れのプレイヤーでもゲームのなかで5倍のスローモーションを見ることは100%ないんです。こういう画にしても耐えられるぞ、そういうゲームをやってるんだぜっていうのを映画監督ならではのやり方で見せたかった。僕もプレイヤーだからこそ、問いかけたい部分もあったんです。プレイヤーの人たちが『おお~こんなことが!』とちょっとでも驚いてくれたらうれしいです」
■スクウェア・エニックスが観ても納得する画の完成まで
開発サーバーと同等の環境の提供をはじめ、スクウェア・エニックスの全面協力のもと映画は完成した。では、スクウェア・エニックス側から制作の際に何か要望はなかったのだろうか?
山本監督いわく「スクウェア・エニックスさんはいい意味ですごくこだわりが強いんです。だからファイナルファンタジーXIVの可能性を誰よりも信じてるんですけど、一方で限界があることも当然認識していました」。その限界は撮影の中でも当然出てくる。そこで、山本監督は「スクウェア・エニックスさんが観ても納得する画」を目指し、映像のなかでその限界の部分が見えないように試行錯誤を繰り返すことに。映像をチェックしたスクウェア・エニックス側の意見を受けて、追撮や再撮することもあったという。
その末に誕生したエオルゼアパートは、物語上だけでなく映像的にも重要な役割を果たしている。基本的に家や職場といった狭い範囲で物語が展開する実写パートに対し、エオルゼアには美しい風景が広がっている。その壮大な世界は映画に奥行きをもたらし、観客の目を楽しませてくれる。
「趣味はロケハン」と笑みをこぼす山本監督は、そんな美しい景色のなかでも特に「倒れている大木のなかを歩いてくるシーン」を注目ポイントに選んだ。「そこってほとんどのプレイヤーは素通りしてるんですよ。だけど日の差し加減とか、向こうに見える景色とか、僕はすごくそこが好きで。これはぜひ使いたいと思って。この場所でこの画を撮れるんだって誰も知らないと思う。よくこんな隠れた名所作ったなと。それを楽しむ僕もいるけど、そこを作ってくれてたスタッフに感謝ですよ(笑)」。本作には、映画監督として、そしてゲームプレイヤーとしての山本監督の挑戦と愛が詰まっている。(編集部・吉田唯)
『劇場版 ファイナルファンタジーXIV 光のお父さん』は公開中