塚本晋也『野火』5年目のアンコール上映 今年も終戦記念日を中心に
映画監督・塚本晋也が、第2次世界大戦末期を舞台に、極限状態におかれた日本兵を描いた『野火』(2014)が、8月15日の終戦記念日を中心に、今年も全国各地でアンコール上映されることが決定した。
大岡昇平の同名小説を、構想20年を経て映画化。極度の飢餓状態のなか、戦争末期のフィリピン・レイテ島をさまよう日本兵が目の当たりにする、戦争の恐怖を映し出す。監督・主演・製作・撮影・編集を塚本監督が一人で手掛けた渾身の一作で、ヴェネチア映画祭コンペティション部門など各国映画祭にも出品。日本では、戦後70年にあたる2015年の夏に劇場公開され、翌年以降も上映が続くロングランを記録した。
その後も、塚本監督の「毎年、終戦記念日に上映されるような映画にしたい」という思いに共感した劇場側の協力によって、終戦記念日を中心にアンコール上映が重ねられており、5年目となる今年も東京・渋谷のユーロスペースをはじめ、全国30館の劇場で上映が決定。(6月21日現在)初上映となる劇場もあり、昨年よりも公開館数は増える見込みだという。
塚本監督はこの間、俳優として出演した『シン・ゴジラ』(2016)、『沈黙 -サイレンス-』(2017)が公開され、新作『斬、』が第75回ベネチア国際映画祭のコンペティション部門に出品されるなど、多忙な日々を送った。それでもアンコール上映では全国を訪ね歩き、初年度からの劇場・自主上映含む総観客数は、現在9万人にのぼる。
アンコール上映に先行して、7月21日には川崎市市民ミュージアムで、塚本監督と映画監督・プロデューサーの岡本みね子とのトークイベントが開催。対談の前には、戦争体験者の声や撮影風景、全国の劇場行脚の様子を映し出すドキュメンタリー「塚本晋也解説『野火』20年の軌跡」が、岡本喜八監督『肉弾』と合わせ上映される。また、終戦記念日の8月15日には、NHKラジオ第一放送の特集企画「高橋源一郎と読む『戦争の向こう側』~2019年~」(夜08:05~9:55)に塚本監督がゲスト出演する。(編集部・入倉功一)
アンコール上映に関する塚本晋也監督のコメントは以下の通り
戦後70年で公開しました『野火』。そのときすでに戦争にいかれた方々はほぼいらっしゃらなくなり、戦場での恐ろしいできごとが忘却の彼方に消し去られようとしていました。
それから丸4年。記憶はさらに遠くなり、戦争で起こったことはさらに遠くへ押しやられ、戦争の痛みを想像することができずにその道に突き進んで進んでしまうことへの
不安を感じます。さまざまな考え方がありますが、まずは『野火』を見ていただき、戦争の実際の恐ろしさを体で知っていただくー。その必要を感じています。
常に考えていなければいけないことではありますが、せめて1年に一度、戦争で起こったことを想像していただく機会にしていただけたら、と思います。
そこには絶対近づかないようにするためにー。
ぜひ、劇場の大きなスクリーンと音響で、体感してくださいませ。
塚本晋也