IOCがオリンピックアニメをポノックに依頼した3つの理由
2020年の完成に向けて国際オリンピック委員会(IOC)と共同でオリンピック短編アニメーションを制作することになった株式会社スタジオポノック(本社・東京)の代表取締役・西村義明と、オリンピック文化遺産財団ディレクターのフランシス・ガベが、フランスで開催された第43回アヌシー国際アニメーション映画祭で制作発表会見を行った。
同企画は昨年夏にIOCからスタジオポノックに委託があったもので、オリンピック文化遺産財団が主導する国際芸術、文化プログラムの一環として制作される。テーマは“オリンピズム”で、オリンピックの価値である「Excellence/卓越」「Friendship/友情」「Respect/尊重」のメッセージを世界中の人々と共有し、かつ喜んでもらえるような芸術財産を築いていきたいという。
アニメを制作するに至った経緯について、ガベは「5、6年前にIOCの(トーマス・)バッハ会長から“新しいことをしたい”という提案がありました。公式記録映画にも新鮮味を与えたいと河瀬直美監督を起用しましたが、開催地ごとに特色を出しており、リオデジャネイロではフランス人アーティストJRやアルゼンチンの芸術家レアンドロ・エルリッヒを起用しました。そして日本といえばアニメです。中でもスタジオポノックと組んだら面白いのではないか? と思いました」という。
スタジオポノックに着目した理由は3つあるという。1つは『メアリと魔女の花』(2017)の世界的な興行の成功で「アートでは大切な要素。多くの観客に響くものを作っている」。2つ目は「幅広い観客に届く作品を作っているにも関わらず手描きアニメーションという伝統を重んじていること」。3つ目は「価値観が似ていること」だという。
ガベは「ポノック短編集『ちいさな英雄-カニとタマゴと透明人間-』もそうですが、自分たちの最善のものを作り、周囲の人たちを幸せにしている。同じ価値観を持って仕事ができるのは大切なことです」と説明した。
依頼を受けた西村は当初は、手描きアニメーションで躍動する身体を描くのは適していないのではないかと思ったそうだが、ガベからの「オリンピズムを若い方々に伝えたい」という趣旨に共鳴し、一晩考えてから決断したという。
西村は「ただ東京2020オリンピックのためかと思ったらそうではなく、100年以上持つ作品を作ってほしいという注文でした。自分たちはいつも今、この瞬間に(観客に)伝えたいというものをと作品を作っているので、それは難しいと思いました。しかもテーマはオリンピズム。最初は何だ!? と思いましたが、オリンピックは競技だけでなく祭典というもう一つの光景を見てれくれる。それを描けばいいのではないか?」という考えに至ったという。
まだ公表はできないそうだが、すでに監督も決まり、絵コンテを作り上げながら構想を広げている段階だという。完成予定は2020年春で、創設60年の記念大会となる第44回アヌシー国際アニメーション映画祭(2020年6月15日~20日開催)でお披露目する予定だ。
ガベが「作品に関しては、これまで芸術性の高い作品を見せてくださっているスタジオポノックに全信頼を寄せています。わたしたちがスピリットを共有しているのが大切で、子どもたちの心に残る作品を作っていきたいと思う」と語れば、西村も「子どもたちが“オリンピックって楽しみだな”と思うような作品を作れたら幸せだなと思います」と意気込みを語った。
2020年はスタジオポノックにとっても創立5年の節目にあたり、まさに大きな飛躍の年となりそうだ。(取材・文:中山治美)