中国の名匠ジャ・ジャンクー監督、新作は一組の男女の17年愛
中国の名匠ジャ・ジャンクー監督が25日、都内で映画『帰れない二人』の来日記者会見を行い、集大成となる最新作に対する思いを語った。会見にはジャ監督の公私にわたるパートナーで主演のチャオ・タオと、市山尚三プロデューサーも出席した。
カンヌ、ベネチア、ベルリンと世界三大映画祭の常連監督として国際的に評価されるジャ監督の新作は、大きな変化を迎えた21世紀の中国を背景に、一組の男女の17年に及ぶ愛を描いた物語。会場に現れたジャ監督は「新作を持ってきて、日本で披露することができてうれしく思います。配給のビターズ・エンドは(長編デビュー作)『一瞬の夢』から私の作品を配給してくれています。そのことにとても感謝しております。今日はようこそ来てくださいました」とあいさつ。
21世紀の中国が経験した歴史を背景とした本作は、ジャ監督にとって集大成となる作品だ。「今、中国は激烈な変化に見舞われています。社会全般が平穏であるとは限りませんが、経済の変化、政治の変化が直接影響していく中でどう生きていくのかを振り返る必要があった」と切り出したジャ監督は、「その方法として、マクロな視点で、長いスパンで人間を観察することが必要だと思った。そのために17年を見つめるということが必要だった。そしてなぜ物語の語りはじめに2001年を選んだのかというと、ちょうど古いものから新しいものへと移り変わるターニングポイントだったからです」と説明。2001年が、WTO(世界貿易機関)への加入、北京オリンピックの決定、インターネットの流入があったことも大きかったといい、「大きなライフスタイルの変更が、我々の心の中の変化にも影響を与えた」とジャ監督は指摘する。
本作は、ジャ監督のターニングポイントとなった過去作『青の稲妻』のチャオチャオ、『長江哀歌(エレジー)』のシェン・ホンという登場人物を、今作のチャオという女性に集約し、その心の変遷をあらためて丁寧に描き出した作品となる。ジャ監督は「この作品の初稿を書いたときに、『青の稲妻』『長江哀歌(エレジー)』の登場人物がどうしてああいう物語の流れに至ったのか。そのあたりを描き切れていなかったなと思いました。もちろん今回の作品は、過去二作の登場人物とは違う人物ではあるんですが、この3本を1本の映画として理解しようと思い、生き返らせたということです」と説明する。
チャオを演じたチャオ・タオも「実は着ている衣装も過去の2作品をイメージしているんです」と明かす。劇中では『青の稲妻』の薄いピンクの衣装、そして『長江哀歌(エレジー)』で着たワンピースをイメージした衣装を着ているそうで、「もちろん今回は違う人物と理解していますが、こうした過去作の衣装を着ると、長い時間が経ったのに、まるであの時の役の頃に戻れるような気がするんです。わたしにとってはいい演出をしてもらったなと思います」と笑顔を見せた。
市山プロデューサーは本作の海外の反応について「驚いたことにアメリカでは多くの観客が入っています。もちろんアジア系のアートムービーなので、ベストテン圏内に入るような大ヒットというわけではないですが、それでも画期的な数字をあげています。アメリカでは『罪の手ざわり』の数字が良かったけど、その倍以上は入っています。なぜこれほどまでにウケているのかはわかりません。ただこの作品はジャ・ジャンクー監督の集大成ではありますが、ストーリーが、登場人物に寄り添っていてわかりやすいというところが大きく評価されている理由かなと思っております」と分析した。(取材・文:壬生智裕)
映画『帰れない二人』は9月6日よりBunkamuraル・シネマ、新宿武蔵野館ほか全国順次公開