久石譲、音楽は「生きること」 映画『二ノ国』収録現場で語る
山崎賢人が主人公の声優を務め、豪華キャストの集結で注目を浴びているアニメーション映画『二ノ国』(8月23日公開)。スタジオジブリ作品をはじめとする多くの映画音楽を手がけてきた久石譲が音楽を担当することも話題だ。その収録現場が5月、マスコミに公開された。
本作はレベルファイブのRPG「二ノ国」の世界観を基にしたアニメーション。現実世界と魔法世界を舞台に、二つの世界を行き来する少年たちが究極の選択に直面するさまを描く。主人公の声を山崎が担当するほか、ボイスキャストには新田真剣佑、永野芽郁、宮野真守、坂本真綾、梶裕貴、津田健次郎、山寺宏一、伊武雅刀、ムロツヨシらが集結した。
音楽収録が行われる都内のスタジオはその日、独特の緊張感に満ちていた。本作に用いられる楽曲の数々が数日をかけて収録される。スタジオには、指揮をとる久石と、それに向き合うオーケストラ、製作総指揮・原案・脚本を担うレベルファイブの日野晃博の姿もあった。
久石がリズムを口ずさみ、「タンタタター!」「パッ! パッ! パッ!」と擬音を交えてイメージを伝えると、その指示にオーケストラが即座に反応する。楽曲ごとに劇中のシーンのイメージも共有し、各パートと細部を確認し合いながら、収録はスムーズに進んだ。指揮をする久石は「いいなー、みんなうまいなあ」「OK、いいです。すばらしい」としばしば笑顔を見せていた。
限られたスケジュールの中で収録を終えなければならないという状況でも、終始、久石の楽しそうな表情が印象的だった。「ちゃんと音楽でコミュニケーションを取れる人たちとやるから。それは本当に楽しいですよね」と久石は語る。
「僕のレコーディングに来ている人たちって、本当に、オーケストラでも首席奏者クラス、トップクラスなんです。ついこの間まで海外でコンサートをやっていたけど、海外のオケに比べたら、日本のオーケストラは本当に良い。ミュージシャンがすばらしいですね。助かりました」
本作のために書き上げ、収録した楽曲の数々。“聴きどころ”については「全部」と断言する。そのうえで、本作ならではのポイントを挙げる。
「今の自分のやり方ってどちらかと言うと非常にミニマル・ミュージック的なアプローチがすごく多いんです。ミニマル・ミュージックというのは、同じ音型を繰り返す。そういうやり方をしているから、今の自分のやり方だと、エンターテインメントの映画にはあまり合わないんですよね。普通ではお断りしちゃう仕事のひとつなんです。ですが、過去にゲームでいっぱい作ってきた音楽があったので、それとうまくバランスを取れれば、今までとは全く違う切り口・やり方の映画音楽になるかなと思って。その辺はちょっと意識しましたね」
本作の題材となったゲーム「二ノ国」シリーズの音楽も担当していた。その時々の楽曲制作に精一杯で過去のことはあまり考えないという久石は、10年前のゲーム音楽について聞くと「あの頃はこうやったんだなというのがわかります。今は同じやり方は全くしていないからね。頑張ってよく書いたなと思ったぐらいの感じですかね」とコメント。「(ゲーム版の)テーマはさりげなく出したりしています。そういうところは楽しんでもらえるのかなと思います」とゲームファンに向けて明かした。
そんな久石にとって、映画音楽を作る意味とは何か。
「エンターテインメントの仕事というのは嫌いじゃありません。それを作るなかで今回であれば日野さんとかといろいろな方とコミュニケーションを取ることで、新しい表現が生まれたり、自分だけではやらないようなこともやったりするから。そうした新しい発見があるというのはすごく楽しいですよね」
人との出会いが新しい楽しみにつながっていくことは、映画音楽に携わる場合だけではない。「コンサートでもみんな一緒。音楽をやるというのは、自分にとっては生きることだからね」と語っていた。(編集部・小山美咲)
※山崎賢人の「崎」は「たつさき」