注目の俳優・猪野広樹、理性と感情のバランスをうまく出せる俳優に!
ハイパープロジェクション演劇「ハイキュー!!」や舞台『刀剣乱舞』などへの出演で活躍する俳優・猪野広樹。そんな彼が映画『JKエレジー』(8月9日公開)では、人生に挫折して目標がないまま日々を過ごす青年・カズオを好演している。20代半ばに差し掛かり、活動の場を広げる猪野はなにを感じ、どんな未来に思いを馳せているのだろうか。
猪野演じるカズオは、お笑い芸人になるべく上京したものの挫折し、田舎に帰って来た青年。将来に希望を持つことなく、相方の妹に「クラッシュビデオ」の話を持ちかけ、日銭を稼ぐ鬱屈した日々を送る。「僕も役者を始めたころ、華やかなイメージとは違い実際は大変な世界だなと思ったことがありました。僕は俳優業を続けてきましたが、逃げ出してしまう人の気持ちはなんとなくわかるので、そこからカズオの感情を引っ張り出しました」と役へのアプローチを語る。
猪野自身、芸能活動は親から反対されてきたというが、大学卒業で進路に迷っていた時期に、マネージャーから「お前を絶対売るから」という言葉をかけてもらい、迷いがなくなった。「この言葉があったから運よく逃げ出さずに済んだと思います」と猪野は振り返る。
そこから猪野は「人の期待に応えること」が生きるうえでのモチベーションになった。俳優業についても「観てくれるお客さんがいるから成り立つ職業」という思いで、ブレることなく「楽しんでもらう」ことにまい進した。
特に舞台では、お客さんの反応が直接的に伝わるため、より芝居に磨きがかかっていった。一番鍛えられたのは「アドリブ」だという。
「バレーボールをテーマにした演劇『ハイキュー!!』のとき、共演者がとにかく舞台上で遊ぶんです。それまで僕はどちらかというとアドリブが苦手だったのですが、この舞台を経験してから、臨機応変に対応できるようになり、芝居のテンポ感も増した気がします。以前に比べると、うまく状況を見ながら、お客さんを波に乗せることができるようになったのではないかと思います」
さらに、集団で芝居をすることで、チームワークの大切さも身に染みて感じた。自分が個性を発揮するのはもちろんだが、作品全体としての役割も考えるようになっていったという。
「鴻上尚史さんの本に『カーブを曲がるとき、感情だけで150キロのスピードで突っ込んでしまってもしょうがない。逆に理性を持って40キロで入っても面白くない。理性と感情のバランスをとり120キロぐらいで曲がるのが一番スリリングだ』ということが書かれてあったのですが、まさにいま自分が目指したい部分がこれなんです」
「作品の世界観を壊さず、どこまで自分の色を出せるか」と俳優としての未来に思いを馳せた猪野。続けて「テンプレにないお芝居をしたいのですが、それはテンプレがあるからこそできるものだし、シンプルな芝居も、なにかを加えて、そこからなにかを引いたことによってシンプルになる。足し算と引き算を意識しています」と真摯に芝居に向き合っていることを明かす。
現在26歳の猪野。20代後半は「映像作品にも積極的に挑戦し、芝居の幅を広げていきたい」と語ると「経験するものすべてが肥やしになると思っています。人間観察ももちろんですが、植物や動物がどんな気持ちでいるのかを想像することも芝居に役立つのかなと思っています」とユニークな発想も。「テンプレにはまらない」を実践している猪野の今後のさらなる活躍に期待したい。(取材・文・撮影:磯部正和)