2019年はオダギリジョー飛躍の年!海外で培った縁が結実
イタリアで8月28日から開催される第76回ベネチア国際映画祭で、長編初監督作『ある船頭の話』(9月13日公開)の上映、出演作『サタデー・フィクション』(2020年公開)のコンペティション部門出品が決定したオダギリジョー。今年10月クールに放送される人気テレビシリーズ12年ぶりの続編「時効警察はじめました」などお茶の間でも親しまれる人気者だが、国内のみならず約10年前から精力的に海外の作品で活躍してきた。『ある船頭の話』は、オダギリが海外で培った縁が結実した記念碑的作品でもあり、今回のベネチアでの快進撃は、安全地帯にとどまらず険しい道のりを選んできた彼の当然の結果とも言える。
出演作は作家性の強いアート系作品から大作まで。お茶の間からマニアックな映画ファンまで、幅広い層から支持されるオダギリ。彼のフィルモグラフィーをさかのぼると、2008年頃から数々のアジアの作品で主演を務め、名だたるスターたちと共演している。
2009年公開の『PLASTIC CITY プラスティック・シティ』では香港のユー・リクウァイ監督のもとオールブラジルロケに挑み、『インファナル・アフェア』などのアンソニー・ウォンと共演。本作は第65回ベネチア国際映画祭コンペティションに出品された。同年に日本公開された『悲夢(ヒム)』では衝撃的な題材、作風で知られる韓国の鬼才キム・ギドク監督とタッグ。『劇場版 SPEC~結(クローズ)~』2作に出演したイ・ナヨンを相手役に迎えたラブストーリーで、ギドク監督がオダギリを想定して書いたものだった。ギドク監督作品には、2018年の『人間、空間、時間、そして人間(仮題)』(劇場未公開)にも出演しており、チャン・グンソクらと共演した。
井上靖の「狼災記」を、中国人監督ティエン・チュアンチュアンが総製作費7億円で映画化した『ウォーリアー&ウルフ』(2011年公開)でも主演。共演は映画『M:i:III』やドラマ「NIKITA/ニキータ」シリーズなどのマギー・Q、衣装は黒澤明監督の『乱』(1985)でアカデミー賞を受賞したワダエミ。香港アジア映画祭やトロント国際映画祭など各国で上映された。2012年公開の実話に基づく『マイウェイ 12,000キロの真実』では、韓国のスター、チャン・ドンゴンと共演。240日間に及ぶアジアからヨーロッパへの大陸横断撮影を行い、マイナス17度の寒さにも耐えた本作で、三つの国の軍服を着て戦うことになった日本人を演じた。監督は、大ヒット作『シュリ』のカン・ジェギュ。
昨年12月には、ウォン・カーウァイ監督作品などで知られる名カメラマン、クリストファー・ドイルがメガホンをとった『宵闇真珠』が公開。香港の漁村を舞台に、日中肌を隠して生活するティーンの少女を描く物語で、オダギリは村を訪れる異邦人にふんした。一方、第76回ベネチア国際映画祭の「ベニス・デイズ」部門(革新性や探求心、オリジナリティー、インディペンデント精神などに優れたハイクオリティーな作品を紹介する部門)に出品された、オダギリの長編初監督作『ある船頭の話』ではドイルが撮影監督として参加。2007年放送のドラマ「帰ってきた時効警察」第8話や、2009年の中編映画『さくらな人たち』(劇場未公開)でも監督を務めたオダギリが、監督業への想いを再燃したきっかけを作ったのはドイルだったという。
オダギリは『宵闇真珠』でクリスと1か月現場を共にするなかで「なんで監督をやらないんだ。おまえが監督するなら俺がカメラをやるから」と言われ、「クリスと何か面白いことをやりたいと思うようになった」とプレス資料のインタビューで語っているが、時代の変化が迫る山奥の村で暮らす船頭(柄本明)を主人公にした物語で、ほとんどが舟と岩場、小屋という限定されたシチュエーションで展開される野心作となっている。衣装を手掛けるのは『ウォーリアー&ウルフ』で現場を共にしたワダエミ。オダギリは「マネージャーも付けず1人で中国に乗り込んでいた僕に、日本食を作ってくれたり、身内のように可愛がっていただきました」と『ウォーリアー&ウルフ』の撮影当時を振り返っている。
そして、ベネチア国際映画祭コンペに出品された『サタデー・フィクション』では、『天安門、恋人たち』『スプリング・フィーバー』などで知られる中国のロウ・イエ監督と組み、『さらば、わが愛/覇王別姫(はおうべっき)』などの名女優コン・リーと共演。第二次世界大戦が勃発する直前、世界各国の諜報員が暗躍する上海を舞台に、実在する「蘭心劇場」で巻き起こる物語で、オダギリは日本から来た暗号通信の専門家として重要なポジションを担う。(編集部・石井百合子)