ベルリン絶賛の『サーティセブンセカンズ』湯布院でも絶賛の嵐!
第69回ベルリン国際映画祭パノラマ部門に選出され、観客賞、国際アートシアター連盟賞をダブル受賞した映画『サーティセブンセカンズ』が24日、大分県由布市湯布院公民館で開催されていた第44回湯布院映画祭の特別試写作品として上映され、辛口で知られる湯布院映画祭の観客からの絶賛の嵐を受けた。
【写真】野村周平×ANARCHY『WALKING MAN』での渡辺真起子
大阪出身、現在はロサンゼルスと東京を拠点に活動するHIKARI監督初の長編作品となる本作は、37秒間仮死状態で産まれたことが原因で脳性麻痺になった主人公・貴田ユマ(佳山明)の成長を描いた青春映画。サンダンス映画祭とNHKが主宰する脚本ワークショップの2016年度日本代表作品として製作され、ベルリン国際映画祭をはじめ、ニューヨークのトライベッカ映画祭に出品。さらに9月のトロント国際映画祭 World Cinema 部門でも上映が決定するなど、世界的に注目されている。
23歳のユマは、入浴も外出も母親の手を借りて生活し、漫画家志望でありながら友人のゴーストライターに甘んじている生活を送っていた。そんな彼女がひょんなきっかけで成人向けコミックの編集長(板谷由夏)や、障がい者専門の風俗嬢・舞(渡辺真起子)といった人たちに出会い、自分を見出していくさまを描き出す。
映画を鑑賞後に行われたシンポジウムでは、皆がそれぞれに「最初は重い作品なのかと構えていたけど、娯楽作品として本当にすばらしかった」「感傷的にならず、卑屈な感じではないドラマにのめりこんだ」「この映画はパスしようかと思ったけど、観てよかった」といった感想を述べる。主役を務めた佳山に対して「この映画に出てくれて本当にありがとう!」「本当に笑顔がかわいかった。後で握手してね」といった言葉が次々と飛び出すなど、湯布院の観客はそれぞれに上気した表情で絶賛コメント。辛口で知られる観客に構えていた渡辺が「湯布院の人たちがこんなに優しいなんて……」と驚く一幕もあった。
佳山は大学卒業後に社会福祉士として働いていたが、「一歩を踏み出すため」に今作のオーディションに参加し、主人公に選ばれた。本格的な芝居が初となる彼女にとって、経験豊かな渡辺の存在は非常に大きかったという。渡辺が「顔合わせも兼ねたリハーサルがあったんですが、演出的な部分は監督に聞いて、演技的な部分は俳優同士、打ち解けるのが早いと思って(佳山に)ガンガン攻めてみた。『このセリフは言える?』とか『あたしはこう思うけどどう思う?』とか。彼女は本当に聡明で、背伸びもしないし、誠実にそこにいらっしゃるので、こちらも襟を正して一生懸命やったという感じですね」と振り返ると、佳山は「真起子さん、本当にカッコよかった。真起子さんが大好きです!」とラブコールを送った。
さらに佳山が「この作品の制作過程もそうですし、わたしの人生自体がそうだったんですが、いろいろな生きづらさを感じていたこともあります。障がい者ということで生きづらさはあるけど、本来の命は尊いものだと思います。この制作過程で自分自身の人生を見つめながら、皆さんとの出会いを通じて、そういったことを教えていただきました」としみじみ語ると、会場は万雷の拍手。
それを聞いていた渡辺は涙を浮かべながら「わたしはずっと(佳山から)励まされているような気がしています。一生懸命生きるというのは尊くて美しいものだと思っていて、どんな作品に関わっていてもそういうことが少しでも表現できればと思いながらずっと俳優の仕事をしています。頑張っていればいい作品ができるというわけではないかもしれないですが、それでも自分が出会う役や物語とこれからも誠実に向き合えたらいいなと。(演じるということは)人の命を預かっていることだなと深く胸に刻めたなと思います。優しい湯布院、ありがとうございます」と感謝していた。(取材・文:壬生智裕)
映画『サーティセブンセカンズ』は2020年2月公開予定