オダギリジョー、監督挑戦の背景に「健康診断」
オダギリジョー監督が9日、公益社団法人日本外国特派員協会で行われた映画『ある船頭の話』の記者会見に出席。オダギリにとって長編初監督作となる本作は、先日まで行われていた第76回ベネチア国際映画祭「ベニス・デイズ」部門に出品されたが、予想を上回る反応の良さに「居心地が悪かった」と独特の表現で喜びを表していた。
本作は、文明の波や時代の移り変わりに直面した山奥の村を舞台に、主人公の船頭・トイチ(柄本明)が、ある一人の少女(川島鈴遥)との出会いを機に、平穏だった日々が一変していくさまを描く。キャストに村上虹郎、伊原剛志、村上淳、蒼井優、浅野忠信、笹野高史、草笛光子、細野晴臣、永瀬正敏、橋爪功ら。スタッフも、撮影監督にウォン・カーウァイ監督作品などで知られるクリストファー・ドイル、衣装デザインに黒澤明監督作『乱』でアカデミー賞を受賞したワダエミと豪華布陣が集結した。
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本作が出品された「ベニス・デイズ部門」とは、革新性や探求心、オリジナリティー、インディペンデント精神などに優れたハイクオリティーな作品を紹介することを目的としている。オダギリ監督は、上映後の観客の反応が「予想以上だった」と振り返ると「ものすごい拍手をいただき、幸せだったのですが、そんなに拍手をいただくような映画じゃないんですよ、と居心地が悪かった」と恐縮する気持ちもあったという。それでも上映翌日、街中を歩いていると「映画観たよ」「良かったよ」という声を直接聞くことができ「自信になりました」と笑顔を見せていた。
外国人記者から「映画監督になりたくて大学に行ったのに、なぜここまで映画を作らなかったのか」と質問されたオダギリ監督は「俳優として仕事をさせてもらっていたなかで、その立場を利用して映画を撮るのは甘えだと思うし、他の映画監督からしたら面白くないだろうなと感じていた」と胸の内を明かす。さらに「俳優が映画を撮ったということで、いくつものフィルターが入るとフェアな評価がいただけないと思った」とも。
オダギリ監督の回答に「なぜこの時期だったら大丈夫かと思ったのか」と質問が及ぶと、健康診断であまり良い結果が出なかったことを理由に挙げ、そのときに「大げさな話として」と前置きしつつ「本当は映画を撮りたかったのに、変なプライドでやりたい気持ちを抑えていたんだと気がついた」と答えた。
また、俳優が映画監督を務める際には出演も兼ねるケースが多いなか、オダギリが出演しなかった理由を問われると「セリフを覚えるのが面倒くさいんです」とジョーク。周囲から笑い声が起こると、あらためて「監督として自分の作りたいものに集中するなら、俳優をやっている暇はないだろうと思ったんです。今後、もし映画を撮ることがあっても、自分は出るつもりはありません」ときっぱり。
本作には主演の柄本をはじめ、草笛光子、橋爪功ら名優たちが大挙出演しているが、演出について聞かれたオダギリ監督は「生意気かなと思って先輩たちに芝居をつけるのは避けました」と語ると「俳優が役を考えるのは当たり前で、役を深めることが仕事。しかも、今回声をかけさせていただいた方々は、役者として信頼している人たち。いちいち監督が説明することは野暮なことだと思っています」と持論を展開していた。(磯部正和)
映画『ある船頭の話』は9月13日より新宿武蔵野館ほか全国公開