少年×アホっぽいヒトラー!タイカ・ワイティティ新作『ジョジョ・ラビット』にスタンディングオベーション
第44回トロント国際映画祭
現地時間8日、映画『マイティ・ソー バトルロイヤル』のタイカ・ワイティティ監督最新作『ジョジョ・ラビット』のワールドプレミアが第44回トロント国際映画祭で行われた。第2次世界大戦時のドイツを舞台に、ヒトラーを空想上の友達に持つ少年ジョジョを描いた本作は、“反ヘイト”をうたうスウィートな風刺劇。笑えるコメディーなのに心が痛くなるドラマでもあり、上映後には感動の面持ちの観客たちから、ワイティティ監督らに長いスタンディングオベーションが贈られた。
10歳のジョジョ(新人のローマン・グリフィン・デイヴィス)は、ナチスに教化された小さな少年。「ユダヤ人はモンスター」で憎むべき存在だと固く信じてきたが、母(スカーレット・ヨハンソン)が自宅に密かに匿っていたユダヤ人の年上の少女と出会ったことで、彼の世界の見方はひっくり返ることになる。ジョジョが念願叶って入団する「ヒトラー青少年団」の教官役は『スリー・ビルボード』のサム・ロックウェル。この「ヒトラー青少年団」のくだりがかなり滑稽に描かれているほか、ジョジョの空想上の友達“ヒトラー”はワイティティ監督がアホっぽく演じており、笑いが絶えなかった。
上映後のQ&Aにキャストと共に登壇したワイティティ監督は、ユダヤ人の母から(父がマオリ)、原作小説「Caging Skies」の話を聞いたことが制作のきっかけだったと明かした。「母がこんな話で~と小説を描写してくれて、映画のアイデアとして良いと思った。それで本を読んでみたら本当に素晴らしかったんだけど、母が描写したのとはちょっと違っていて(笑)。脚本は、間違っている母のバージョンに近い感じで書いていった。そして空想のヒトラーも加えて、もっとユーモアが増すことになったんだ」
母という存在はストーリーにおいても大きな意味をもっており、「この映画は母親たち、特にシングルマザーたちへのラブレターだ。僕もシングルマザーに育てられた。スカーレット演じる母親は、僕にとってこの映画で一番重要な要素」とワイティティ監督。その言葉通り、ジョジョへの母の思いは胸を打ち、彼女が「唯一地に足の着いたキャラクター」だったからこそ、コメディーと深いドラマのバランスが取れたという。空想のヒトラーのアイデアについても、「僕はいつも父親という存在を空想し、そんな存在を求めていた。それはナチ時代のドイツで育てられた少年でも同じだと思うんだ」と説明した。
ワイティティ監督は最後に、本作は世界的にヘイトが広がる現代と深くつながった作品だとコメント。「ヒトラーが権力を手にした1933年というのは、毎日少しずつ、ちょっとしたことが変わっていったと思う。間違っているけど、重大だとは思えないようなこと。それが大変なことだとわかったのは、手遅れになってからだった。僕は今、それと同じことが起きていると感じている。それらに気付かないふりをして、ああしたことはもう起こらないと思うのは、1933年と同じ。当時の人たちも第1次世界大戦ほど悪いことは起こるはずがないと思っていた」
「無視し、傲慢にも忘れることは、人間の欠点。だから忘れないように、こうした物語を何度も何度も、語り続けるのが重要だと思う。僕たちは覚えていないといけないし、同じ物語を語る独創的な方法を見つけ続けないといけない。自分たち、そして子供たちに、愛を持って前進していくにはどうすればいいか教えるために」と述べて拍手喝采を浴びていた。(編集部・市川遥)
第44回トロント国際映画祭は現地時間15日まで開催