松岡茉優、「女優人生の第二章」野望明かす
世代を代表する女優として、大きな輝きを放っている松岡茉優。白石和彌監督最新作『ひとよ』(11月8日公開)では、家族の絆を結び付けようとする長女役を繊細な表現力で体現している。話題作への出演が相次いでいるだけでなく、バラエティー番組や舞台あいさつなどでも、周囲をパッと明るくしてしまうパワーを持つ彼女だが、子役からスタートさせたキャリアにおいては不遇の時代も過ごした。「いまは女優人生の第二章」という松岡が、ブレずに抱いている信念、そして現在の野望を明かした。
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本作は、15年前に母親が起こした事件をきっかけに別々の人生を歩むことになった家族の葛藤と再生を描く人間ドラマ。田中裕子が母親・こはる、佐藤健、鈴木亮平、松岡がこはるの子どもである三兄妹を演じた。「白石監督とはいずれ、どんな役でもいいからご一緒したかった」と念願の白石組への参加。そして、「田中裕子さんの娘になれるんだということも、本当にうれしかったです」と喜びを噛み締め、「スーパーラッキー」と笑顔を弾けさせる。
演じた園子は、美容師になる夢を諦めてスナックで働く女性。天才ピアニストにふんした『蜜蜂と遠雷』から一転、茶髪にくわえタバコ姿で見事に地元の女性としてスクリーンに現れる。「『蜜蜂と遠雷』の撮影では、主演だったこともあり、プレッシャーや責任感で毎日ヘトヘト。家に帰ってからは、現実逃避するかのように『園子役、どうしようかな』と考えているときもありました」とリフレッシュすら芝居に結びついてしまうほど、この仕事に熱中している。
園子役でイメージしたのは「カラカラに乾いた印象」。「愛情にも飢えつくし、兄妹愛にも気づけず、男性関係も続かず。カラカラに乾いた女性にキューティクルがあってはいけないなと思い、髪を染めました」
どんな役でも、「短所を見つけるのが大事だと思っている」という。「いつもわたしは役のプロフィールを自分で作るんです。家系図も書くし、何よりも役の誕生日を決めるのが一番楽しい作業で!『誕生日大全』という本があるんですが、誕生日ごとにその人の長所と短所も書いてあって。役の短所を見つけて、その本をもとに誕生日を決める。人間って、本当は悪いところだらけですよね。ちゃんと悪いところを見つけておけば、その役に人としての深みが出るのかなと思っています」とキャラクターに血を通わせる秘訣を明かす。
「白石監督はものすごく愛される監督で、チームワークの感じられる現場」と振り返るが、そのなかでも「三兄妹は現場でもよく話をしていました。三人がタクシーに乗り込んだカーチェイスのシーンがあるんですが、『これは酔うな』と思って、何種類かの梅干しのお菓子とお水をカバンに詰め込んで行きました。佐藤さん、鈴木さん、それぞれお気に入りの梅干しが違うんですよ!」という松岡は、一番の撮影現場のムードメーカー。インタビュー場所にしろ、いつでも彼女の周りは温かな笑顔であふれている。
そこには、24歳にして15年以上のキャリアを持つ松岡の「子どものころから、人の笑顔を見るのが大好き。誰かを笑顔にしたい」というブレない信念が秘められている。「子どものころはよく、波田陽区さんや、ディラン&キャサリン(なだぎ武、友近)のモノマネもしていました。人に笑ってもらうのが大好きなので、芸人さんを尊敬しているし、バラエティー番組も大好き。笑いって、“救い”だと思うんです。『ひとよ』は笑える映画ではないけれど、家族に対してゴロッとしたものを抱えた人には、救われたり、許されたりする映画なのではないかな。生きにくいと感じている人が、少しでも救われるような映画に出たいです」
「10代のころは全然お仕事がなかった」というが、熱く、真摯に女優業に向かう姿は、数々の名監督との出会いとして結実している。「中村義洋監督、吉田大八監督、三池崇史監督など、続けざまに邦画界を代表する監督たちとご一緒させていただいて。本当に出会いに恵まれているんです。母には『あなたには引き寄せる力がきっとあるから、大きな声で言霊を発しなさい』と言われました」とニッコリ。
敬愛していた「是枝裕和監督、三谷幸喜監督と仕事がしたい」との夢が叶い、「女優人生の第一章が終わった」という松岡。第二章の野望は、「だんだん同世代の監督さんも増えていきているので、そういった方々とたくさんご一緒したいです。監督としても活躍されている松本花奈さんは、子役からご一緒させていただいてる方なんです」と。「わたしはすばらしい監督さんたちとご一緒させていただいたので、その経験をこれからの映画界を担う方たちと味わっていきたい」と意欲を燃やす。これからも、松岡茉優が邦画界の大きな光となりそうで、ますます楽しみになった。(取材・文:成田おり枝)