貫地谷しほり、毎日すごくつらい…精神的にハードだった撮影
母であることを手放した女と、母になることを決意した女。対照的な二人の女性の人生を通して、親子の絆を問いかける映画『夕陽のあと』(公開中)の公開記念舞台あいさつが9日、新宿シネマカリテで行われ、女優の貫地谷しほりと山田真歩、メガホンを取った越川道夫監督が登壇。上映後だったこともあり、貫地谷は「今、私が皆さんにどう映っているのか、怖い」と観客にあいさつ。「現場は、毎日すごくつらくて、山田(真歩)さんが島の方々と楽しそうにコミュニケーションしているのを羨ましいと思いながら、暗い気持ちでした」と精神的にハードだったという撮影を振り返った。
物語は、自然豊かな鹿児島県長島町を舞台に、ブリの養殖業を夫婦で営む日野五月(山田)と、1年前に島に現れ、食堂で働く佐藤茜(貫地谷)を中心に描かれる。五月は、生後間もなくから預かり養育してきた7歳の豊和(松原豊和)との特別養子縁組申請を控え、ようやく豊和と本当の家族になれると胸をふくらませる。だがその手続きの過程で、五月は、思いもよらぬ事実を知ることに。豊和は7年前に東京で起きた乳児置き去り事件の被害者で、豊和の母親の名は、佐藤茜だった……。DVや乳児遺棄、不妊治療や養子縁組制度といったテーマを扱う骨太なヒューマンドラマだ。
「子供と幸せな家族をスタートさせようとしているところに、私(茜)みたいな女が現れて、かき乱していく。普通なら、私も五月の方に感情移入してしまうところです」と客席の心情をおもんばかった貫地谷。自身も今年9月に一般男性との結婚を発表。新生活をスタートしたばかりだ。「でも、自分の価値観は置いておいて、茜に、いかに寄り添えるかを考えていました」と難しい役柄にチャレンジしたと話す。
一方、山田は、越川監督に「地元の人に(山田について)『どれが女優さん?』って聞かれた」と紹介されて「今のは、褒め言葉としてうかがっておきます」と笑顔。地元に生まれ育った人物になりきるため「漁師さんの家に泊めてもらい、朝から一緒に仕事に出ていました」と、こちらも役づくりに努力を惜しまなかった様子で、「道ですれ違ったおばあさんから20分くらい、身の上話を聞かされて、新しい島の住人に思われたらしい」とエピソードを紹介した。
『海辺の生と死』『二十六夜待ち』などを手がけた越川監督は「生みの親と育ての親の争いを扱う映画は、今までいくつかありました。でも、僕は、そのどちらか一方ではない気がしていて、そういう問題圏の外に出ることはできないのかと思いながら撮りました」と本作への思いを明かす。
貫地谷も、最後に「今は一度失敗した人間が、再起をかけることが難しい世の中かもしれません。でももしかして、自分の隣にそういう人がいるかもしれないと、気にかけることができたら、違う景色が見えるのでは」と役を踏まえて、語っていた。(取材・文/岸田智)