『スター・ウォーズ』手描き看板に宿る職人技 日劇・巨大看板に携わった北原邦明さん
1978年に日本公開された映画『スター・ウォーズ/新たなる希望』の大看板制作に携わり、12月20日に公開されるシリーズ最新作『スター・ウォーズ/スカイウォーカーの夜明け』の手描き看板を制作した看板職人の北原邦明さんが、仕事への思いを語った。
【画像】北原さんも携わった『スター・ウォーズ』日劇手描き看板
北原さんは『パイレーツ・オブ・カリビアン』『ハリー・ポッター』シリーズといった大ヒット作から、映画ファンおなじみの名作まで、数々の作品を手掛けてきたベテラン職人。壁等に貼り付けた薄いザラ紙に画像を投影し、輪郭などをペンでトレースし、下描きを作成。そこから専用の絵の具で色を作り、多種多様のブラシを巧みに使い分けて、看板を完成させていく。
そんな北原さんが携わった初めての作品が、1978年、日本劇場(日劇)に掲げられた『スター・ウォーズ』の看板だった。劇場を覆いつくさんばかりの巨大看板の制作期間は約1か月ほど。「まだ下っ端だったのでトレースなどの手伝い程度でしたが、完成までの工程は全て見ていました。ずいぶん大きい看板を作っているんだなと思っていましたね」と当時を振り返る。
制作中は、どんな映画なのか想像もつかなかったという北原さん。それだけに、劇場で観た『スター・ウォーズ』の衝撃は大きかった。「はじめて映画館で観たときは鳥肌が立ちました。最初のタイトルだけで圧倒されて、登場人物や設定も全てに意外性があって面白い。それ以降のシリーズはずっと観ていますし、大好きな映画。新作がくるとワクワクしますね」
『スカイウォーカーの夜明け』の看板は約2週間かけて制作。そこには、手描きならではの工夫が光る。「主人公のレイなど人間のキャラクターは、元の絵より肌の色を明るくしています。そうすると、(看板にしたときに)人物がより飛び出てくる印象になる。使う色も絵の具をまぜて作るのですが、配分などに決まりがあるわけではなく、経験です。教えられてやっても、どうしても同じ色にはならない」。
近づくと、筆ならではの躍動感がより感じられ、職人の個性が光る。「私自身は、アート性を出そうとかそういう事は考えていません。仕事として向き合って普通に描けば、そういう面が出てくるというだけ。そこに、懐かしさや魅力を感じてくださる皆さんが見てくれればありがたい」。
現在はシネコンの隆盛やインクジェットプリンターの普及で、手描き看板はすっかり姿を消した。「当時は職人が何人もいて、同じ映画でも、俺の方がうまいと言って競い合うんですね。そういう気持ちがないと上達しないですから。もちろん実際は先輩の方がうまかったりするのだけど、そういうやる気をもって描いてました」という北原さんだが、今は技術を受け継ぐ人材もおらず、手描き看板は貴重な存在だ。
「当時の先輩であったり、描ける人間はいるんですけどね。これだけでやっている人は今はほとんどいない。(1作目の時のような)大きな物をできる体制も崩れています」という北原さんだが、自身は「お話をいただければもう、喜んで描きますよ」と笑顔で語る。「実際、未来のことを考えると、手描き看板ロボットみたいなのが出てくるかもしれませんね(笑)。職人のタッチを出すのは難しいかもしれませんけどね(笑)」(編集部・入倉功一)
映画『スター・ウォーズ/スカイウォーカーの夜明け』は12月20日より全国公開
手描き看板は2020年1月9日までTOHOシネマズ日比谷で掲示予定