小津作品は「最適な教科書」とパルムドール受賞監督【第4回マカオ国際映画祭】
10日まで開催された第4回マカオ国際映画祭のディレクターズ・チョイス部門で、小津安二郎監督『東京物語』(1953)の4Kデジタル修復版が、市内にあるシネマテーク・パッションで上映され、多くの若い観客が来場した。12月12日は小津監督の命日で没後56年となる経つが、小津監督にオマージュを捧げたコゴナダ監督『コロンバス』も2020年3月に公開されるなど、今なお世界中の人々を魅了し続けている。
ディレクターズ・チョイス部門は、世界で活躍する監督が、影響を受けた作品を次世代に伝える目的で設けられたもの。東洋の監督は西洋の作品を、西洋の監督は東洋の作品をセレクションするのがルール。『東京物語』はルーマニア出身で、映画『4ヶ月、3週と2日』(2007)で第60回カンヌ国際映画祭でパルムドール(最高賞)を受賞したクリスティアン・ムンジウ監督による推薦だ。今回のニュー・チャイニーズ・シネマ部門の審査員でもある。
上映前に舞台あいさつに立ったムンジウ監督は「映画というのは、編集しすぎない限り時間の経過をそのまま見せることができるというのが発見でもあった。しかしオズは、細かいカットを重ねながら、現実世界において、時間がいかに経過していくのか。映画界の巨匠の一人です」と解説した。
ムンジウ監督の小津作品との出会いは、ブカレスト大学で映画製作を学んだ20代前半だったという。しかし今のように旧作に簡単に触れられるチャンスはなく、映画史を学んでいた教科書の中で存在を知ったという。ムンジウ監督は「映画はその時代を表すものです。残念ながらオンタイムでオズに触れることはできず、実際に出会ったのはかなり後ですが、映画に対する同じ思考を持ち合わせていたことを知ると同時に、物語の今日性を感じました」という。
小津作品の存在というのはムンジウ監督だけでなく、ベルリン国際映画祭で金熊賞と国際映画批評家連盟賞の2冠を獲得した『私の、息子』(2013)のカリン・ペーター・ネッツァー監督ら“ルーマニア・ニューウェーブ”と呼ばれる世代の監督たちにも大きな影響を与えているそうで、彼らと会話をすると小津監督の名前が出てくるという。
「物語の中で何か大きな山場を作らずとも、わずかな会話、人生の瞬間瞬間を切り取るようなカットといったミニマリズムで登場人物たちの人生を表現していく。映画学校で学ぶには最適な教科書でしょう」と力説した。その上「今は最新機器の恩恵もあり、手軽に映画を鑑賞することも映画史を学ぶこともできますが、ぜひこのシネマテークに足を運んでください」と観客に呼びかけた。
ほか同部門では、『イロイロ ぬくもりの記憶』(2013)で世界中の新人監督賞を総ナメにしたシンガポールのアンソニー・チェン監督の選定によるフランソワ・トリュフォー監督『大人は判ってくれない』(1959)、『我らが愛にゆれる時』(2008)で第58回ベルリン国際映画祭脚本賞を受賞した中国のワン・シャオシュアイ監督によるミケランジェロ・アントニオーニ監督『欲望』(1966)も上映された。(取材・文:中山治美)