「ひつじのショーン」のSF映画、セットに使われたまさかの物!
英国アードマン・アニメーションズの『映画 ひつじのショーン UFOフィーバー!』(公開中)の監督の一人であるウィル・ベチャーが来日し、イギリスの牧場が舞台のストップモーションアニメシリーズでありながら、まさかのSF映画となった本作の裏話を明かした。
まさかのSF!『映画 ひつじのショーン UFOフィーバー!』予告編
いたずら好きのひつじ・ショーンを主人公にした「ひつじのショーン」は、2007年の放映開始以来、子供たちはもちろん大人まで魅了している人気シリーズ。初の劇場版『映画ひつじのショーン ~バック・トゥ・ザ・ホーム~』(2015)ではショーンが退屈にも感じていた日常の素晴らしさに気付くさまを描いて批評的にも興行的にも成功を収めたが、ベチャー監督は「だからこそ僕たちはそれを繰り返したくはなかった」と語る。
「前作とは全然違う物語を語りたかった。新しいキャラクターを出してショーンを牧場から遠く離れたところに送り出すというところから考え始めて、それが宇宙人だったら? というアイデアがSFへの可能性を開いてくれた。全く新しいジャンルだし、アードマンのスタッフは皆SFファンだから、たくさんのオマージュを入れられると思ったんだ」
それだけに本作には「宇宙戦争」などSFの父と呼ばれるH・G・ウェルズの名前をもじったガレージが出てきたり、ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督の『メッセージ』の宇宙人の不思議な文字まで意外な形で使われていたりとSF作品へのオマージュがいっぱい。『2001年宇宙の旅』『未知との遭遇』『遊星からの物体X』『ロボコップ』『バック・トゥ・ザ・フューチャー』『エイリアン』……と挙げ始めたらキリがなく、ベチャー監督は「子供たち向けではないね」と笑った。
また、SFの雰囲気をきちんと出すために、スクリーンサイズには「ひつじのショーン」シリーズで初めてワイドなシネマスコープを採用している。「アート部門とセットドレッサー(セットを小道具で飾り付ける係)は、そのワイドなフレームをちゃんと埋めないといけないから大変だった。とても遠くからのショットがあるから、今回初めてミニサイズの牧場を作ったりもした。でもとても本物らしく見えるよ。彼らは材料を見つけるのがうまいんだ。例えば本作に出てくる草は、“テディベアの毛”なんだ。それを染色して、ミステリーサークルに見えるようにしているんだよ(笑)」
ショーンと友達になった宇宙人ルーラを追う「宇宙人探知省」の秘密基地のセットにも、まさかの物が使われている。「アートディレクターのマット・ペリーは、あのセットをどうやって建てるかということを数か月にわたって計画していた。なぜならワイドショットが撮れるような巨大なセットであるのと同時に、クローズアップが撮れるように分解もできないといけなかったから。彼のチームは時にとても面白いものを背景に使っていた。何かを封じ込めておくようなSFっぽいものなんだけど、よく見たら、それは違う色に塗られ、上下逆さまにして置かれたコーヒーメーカーだったり(笑)。皆さんがこの映画で見る全てのものは、そういったものが材料になっているんだ」
そんな秘密基地で繰り広げられるチェイスシーンは複雑で、撮影するのに3か月かかったという。本作ではSF映画らしくカメラにも動きがあるが、1コマ1コマ撮影するストップモーションアニメでは、カメラもほんの少しずつ動くようにプログラムしておかないといけないのだ。ベチャー監督は「ストップモーションアニメにおいてワイドショットでたくさんのキャラクターが出るというのは滅多にないことだから、ちゃんとやっておこうと思った」と全ての部門が一緒に取り組んだという秘密基地でのシーンに胸を張った。
本作は「ひつじのショーン」らしいドタバタコメディーでありながら、ラストに向けてのドラマの盛り上げ方が素晴らしい。思わず涙してしまう人もいるはずだ。
「僕たちはコメディーを中心に置き続けようとしたが、ジョークだけではダメなんだ。ものすごくいいジョークを思い付いたとしても、それが物語を先に進めることに役立たないならば取ってしまった。この映画のコアの部分は、感情と友情の旅だから。『このシーンには十分な強さがあるか?』ということを常に話し合っていたよ」
ちなみに、ベチャー監督のお気に入りのキャラクターは牧羊犬のビッツァーとのこと。怠け者の牧場主の代わりにひたすら働き、ショーンたちのいたずらに日々心をすり減らしているビッツァーは、本作でも大変な目に遭ってしまう。ベチャー監督は「彼といると楽しいことが生まれる。彼には申し訳ないとも思っているけどね(笑)。本作は二人の友情の物語でもあって、ビッツァーは最後には少しだけ、リラックスして、そんなに厳しくしなくてもいいということを学ぶんだ。そしてショーンも少しだけ、いたずらばかりされる者の気持ちを理解する」とほほ笑んでいた。(編集部・市川遥)
『映画 ひつじのショーン UFOフィーバー!』は公開中