井上芳雄、来年デビュー20年 挑戦続けるワケ
2000年にミュージカル「エリザベート」でデビューを飾って以来、確かな実力で絶大な支持を得る、ミュージカル界のプリンス・井上芳雄。映画『僕のヒーローアカデミア THE MOVIE ヒーローズ:ライジング』(12月20日公開)では、最凶の敵(ヴィラン)の声優を担い、その活躍はジャンルを問わない。来年にはデビュー20周年を迎えるが「まだ初めてやることが多い」と明かすほど、チャレンジングな姿勢を保ち続ける。その理由は、自分自身への探求心にあるという。
舞台や音楽活動をはじめ、2017年には大河ドラマ「おんな城主 直虎」への出演を果たすなどドラマ・映画でも活躍。バラエティー番組でユーモアたっぷりに場を盛り上げる姿も好評だ。今回、『僕のヒーローアカデミア』への声優出演は、原作漫画もテレビシリーズも観ていた中学2年生の息子の「絶対やってほしい」という言葉に背中を押されたそう。
「息子もどんどん大きくなって、共通の話題も少なくなっていくなかで、『どんな作品なの?』と聞いたりすることで話をする機会が増えたので、それはすごくうれしいことでした」と振り返る井上。完成した作品を息子と一緒に観れば「株が上がるかな」と父の顔をのぞかせた。
原作は、「週刊少年ジャンプ」(集英社刊)で連載中の累計発行部数2,500万部を超える人気漫画。本作では、プロヒーローを目指す雄英高校ヒーロー科1年A組の面々が、離島での校外ヒーロー活動に挑む姿が描かれる。井上は彼らの前に現れる敵・ナインの声優を担った。悪役として、「これまでに出したことのない声」にも挑んだそうで、新しい経験だったと喜ぶ。
ライバルとの関係はいまだに難しい
生徒たちは、時にぶつかり合うライバルであり、時に助け合う仲間。そんな存在については、「僕自身は同業者はある意味みんな敵だと思って生きてるので(笑)」と冗談めかしつつ、同じ志を抱きながらもそれぞれの道を行く彼らのように、ミュージカル界では「目標は一緒だけどやり方は違うというのは多々ある」と語る。特にダブルキャストの場合にはそれが色濃い。
「彼にあって僕にないものは何だろう、その逆は何だろうというのは毎回すごく考えますね。あまりに考えすぎて、相手が風邪でもひいてくれないかなとか思ったりして(笑)。でも結局、問題は自分自身だという根本的なことにたどり着きます。自分がちゃんとやるしかないし、相手が調子悪いから自分が良くなるとかそういう話じゃない。そこに気づくという意味では、ライバルの存在は時にすごく苦しいこともありますけど、自分自身を知るために必要だと思います」
キャリアを積んでも、その関係は難しいと明かす。仕事上はライバル、プライベートでは友人でいられることが理想だが、「仕事で同じ役をやっている間は、なかなか本当には仲良くなれない。そこはいまだに難しいです」と吐露した。
2020年でデビューから20周年!
来年でデビュー20周年を迎えることについては、あえて意識することはないものの、「よく20年やってこられた」という思いはある。
「20年を長かったとは思わないです。ただ、もうここ数年の記憶がない。それくらい色々なことを間もなくずっとやらせてもらい続けています。こんなに作品を続けられるってすごいことだと思う一方、あれ、何していたんだろうとなるくらい充実しています」
挑戦していくためのモチベーションとしてはもちろん、ミュージカルが好きでそれを広めたいという思いがある。だが「それだけとも言えない」と続けた井上。
「自分の可能性を知りたいのかもしれません。今回みたいに自分はもしかしたら声優だってやれるかもしれないし、バラエティーだってできるかもしれない。やってみて向いてないことは多々あるんですけど、やってみないとわからない。それに、やってみて世界が広がるうれしさは何物にも代えがたく、それこそ生きる意味じゃないかと思うくらいです。そこへの興味が抑えきれないみたいです」
リスクも大きいように思えるその探求心の根源を聞くと、「自分のことを過大評価しているんでしょうね」と分析。
「できるかもしれないと。できてもできなくてもそのことを思い知りたい。試さずには納得できない性格なんだと思います。自分自身もどこまでできるのか見えないまま、わくわくしながらやっているからこそ、頑張りすぎちゃうところはあるのかもしれないです」
ファンの間では井上が2、3人いるのではとささやかれるほど絶え間なく挑戦を続けるなか、「まだ初めてやることが多い」と言い切る向上心。「どこかでプチンと切れるかもしれないし、それは自分にもわからないですね」と笑って見せたが、笑顔の裏にはその活躍を続けられるだけの努力が隠れているのだろう。(編集部・小山美咲)