綾野剛&松田龍平、唯一無二の相性 アドリブ交えた『影裏』撮影
俳優の綾野剛、松田龍平が、中国のリゾート地として知られる海南省・三亜市で12月8日に開催された第2回海南島国際映画祭の授賞式に登壇。同映画祭のコンペティション部門に選出された『影裏』(読み:えいり 2020年2月14日公開)で共演する2人が現地でのインタビューに応じ、唯一無二の相性をうかがわせた。沼田真佑の芥川賞受賞作を、『るろうに剣心』シリーズなどの大友啓史監督が映画化した本作で、綾野は失踪した友人の足跡をたどる会社員・今野に、松田は失踪した友人・日浅を演じている。
ーーお二人は2005年公開の映画『NANA』で同じバンドのメンバーとして共演されていました。綾野さんは人気バンド・TRAPNEST(トラネス)のボーカル、松田さんはギタリストを演じていましたがシーン自体は短かったですよね。
綾野剛(以下、綾野):龍平は覚えていないと思うんですけど、『NANA』の現場で撮影が終わったあとに写真を撮影したのですが、その時に分け隔てない人だなと思った記憶があります。その後にもプライベートで会う機会がたくさんあったので、『影裏』で本格的な共演となったときに「そうだったんだ」って、言われて気付いた感じでした。
松田龍平(以下、松田):『NANA』の時にはあまり一緒に芝居をしたという感じではなかったので、『影裏』が初めて、というような感覚はありましたね。綾野くんは、すごく現場のムードを大切にしていて、刻一刻と変化する空気感にすごく敏感。一方で、ムードに流されない強さというか柔軟さがあるんだなと思いましたね。
綾野:俺のこと「かわいい」としか言ってなかったよね?
松田:(今野が)いわゆる男らしい役ではなかったので、かわいいなと。そういう意味(笑)。
ーー原作は中編で、今野と日浅の関係をはじめ映画ならではのアレンジも加えられています。映画をご覧になって、驚きのようなものはありましたか?
綾野:映画を観て、日浅の圧倒的な「不在感」に驚かされましたし、とても心に残っています。役者ってどうしても何においても表現しようとするものですが、これは松田龍平にしかできないもの。共演シーンでは、顔を見ずとも、目を合わさなくても、どんな表情をしているのかお互いに想像できる関係にまでなっていた。だけど、いざ映画を観てみると見たことのない知らない日浅がそこにいた。そういった点がある種のサスペンスさえも生んでいる気がします。
松田:僕の演じた日浅は、周りの同僚だったり家族の視点から紐解かれていくようなシーンが多くて、僕の関わっていないシーンがたくさんあったので面白かったです。あと、釣りのシーンは、今野も日浅も慣れているように見えるかもしれませんが、実際はそんなことなくて大変だったんですよ(笑)。初号を観た時に「ちゃんと演出でつながっているな」と感心しました。例えば、魚が釣れたというシーンでは、スタッフの方が川にもぐって魚を釣り竿につけてくださっていたり。タイミングも難しくて、釣れたんだけど落として流しちゃったというシーンでは、魚が逃げないで戻ってきてしまったり(笑)。
綾野:素知らぬ顔で会話しているけど、(魚が)いないフリってこんなに難しいのかって。
松田:ガラ掛けっていう、長い釣り竿を使うものもあったんですけど……。
綾野:地獄絵図だったね(笑)。
松田:針が上を向いているから、すぐ手にさくっと刺さってしまって。「刺さった!」と思っているんだけど、普通に会話をしているという(笑)。暗闇の中でやっていたからなおさら大変で。
ーー大友監督はなかなかカメラを止めないそうですね。
綾野:カメラを止めない、というよりはまだ(芝居を)観ていたいという感じでしょうか。大友監督が、頭の中で何かを想定して撮っていないということだと思います。どうしたら映画になるのか。僕ら2人を長く観察することでアイデアが生まれるのかもしれません。
松田:結構、緊張してやっていたとは思いますね。
綾野:代行を呼ぶシーンでは、急に龍平がアドリブで「住所って何だっけ?」って聞いてきて、咄嗟に目の前に公共料金の紙があったのでそれをパッと出したり。
松田:確かに。見事にちゃんと返してくれたね。二人の会話のシーンは長く撮っていることが結構あったけど、僕としても「足りないな」という気持ちはあったんですよね。もっと今野との距離を詰めたいというか。そういう気持ちを大友監督も持っていてくださったのかはわからないですけど、実際に映画に反映されている部分もあって。あと、今野と日浅が音楽を聴いたり、酩酊状態で路地を歩くシーン。ああいうところはセリフがないから、基本はアドリブやったんだよね。
綾野:朝方に酔っ払って帰っているところなんかは、ひたすら笑っていた気がする。
松田:実際に前日に飲みに行ってそのノリを、そのまま持ち込んだ感じ。あのシーンはムードが伝わればいいシーンだったと思うし、楽しかったよね。
ーー海南島国際映画祭では中国メディアから取材を受けていましたが、日本のメディアとは違う感覚、新鮮に感じるようなことはありましたか?
綾野:役者ではなく監督への取材やアプローチがとても熱心です。日本映画や我々にも沢山興味をもってくださっています。そして海南島国際映画祭から圧倒される程の勢いを感じました。国策として映画に真摯に向き合っていますし、審査委員長のイザベル・ユペール氏をはじめ、世界を体感できる環境に呼んでいただけた感謝しかありません。一方で、またこういう機会をいただけることを願って、日本映画を伝えていくプラットホームの強化が必要だと確信しました。取材での伝え方一つでも、言葉を隔たりと考えるのではなく、どうコミュニケーションに変えていけるのか、最高の映画を届けるにはどうしたらいいのか、さらなる勉強が必要です。
松田:刺激的で面白かったです。言葉の壁があっても、思いを伝えようとする真剣な気持ちさえあれば何とかなる、観ていただいている皆さんにちゃんと伝わるんだなと感じました。
現地では一般上映の舞台挨拶、現地メディアの取材、授賞式のレッドカーペットなど多忙なスケジュールをこなした綾野と松田。中国でも人気の2人に貪欲に次々と質問を投げかける記者たちを前に、ムードに流されることなく冷静かつ柔軟に対応していた姿が印象的だった。この2人だからこそのコンビネーションが、松田の最優秀男優賞受賞につながったと言っても過言ではない。(編集部・石井百合子)