2019年後半の成功作・失敗作
『スター・ウォーズ/スカイウォーカーの夜明け』の北米オープニング興行収入は1億7,740万ドル(約195億円)で、『キャッツ』は660万ドル(約7億円)。大作が公開される最後の週末、この二作の明暗は大きく分かれた。『最後のジェダイ』には劣っても、前者は間違いなく2019年の「成功」組。一方で、豪華キャストを集め、1億ドル弱(約110億円)をかけて作った後者は「がっかり」組だ。他にはどんな映画がこの2グループに入るのか。9月から年末までのアメリカの興行成績を見てみよう。(数字は Box Office Mojo 調べ、1ドル110円計算)(Yuki Saruwatari/猿渡由紀)
勝ち組の明らかな代表は、『アナと雪の女王2』と『ジョーカー』だ。現在『アナ雪2』は公開5週目にして、1作目の最終興収4億ドル(約440億円)を上回る秒読み段階。クリスマスからお正月にかけて、ますます数字を伸ばしていくのは確実である。だがもっとすごいのは、最初からヒットが予想されていた同作とは違い、リスクを取った『ジョーカー』だ。スーパーヒーロー映画は、ティーンエイジャーが観に来られるようにR指定は断固として避けるのが常識。にもかかわらず、あえてその道を選んだことで『ジョーカー』は5,500万ドル(約60億5,000万円)という限られた予算しかもらえなかった。しかし、結果は北米だけで興収3億3,000万ドル(約363億円)超え。世界興収は10億ドル(約1,100億円)以上で、アメコミ映画では史上最高に利益率の高い作品となった。公開から2か月半がたつ今も劇場で上映されている上、アワードシーズンの後押しもあり、少しずつながらも、まだ数字を伸ばしていきそうである。
その他、イギリスの人気テレビドラマの続きである『ダウントン・アビー』が、北米だけで1億ドル(約110億円)弱、全世界で1億9,000万ドル(約209億円)以上を売り上げ、フォーカス・フィーチャーズ創業以来最高のヒット作となっている。コンスタンス・ウー、ジェニファー・ロペスが出演する『ハスラーズ』も、この秋のサプライズヒットの一つ。2,000万ドル(約22億円)で作られたこの映画は、北米だけで興収1億ドル(約110億円)超えで、ロペスはいくつかのアワードの助演女優部門候補にも上がった。現在ボックスオフィスランキングで5位の『ナイブズ・アウト/名探偵と刃の館の秘密』も、興収1億ドル(約110億円)突破は確実。ダニエル・クレイグ、ジェイミー・リー・カーティスらが出演するアガサ・クリスティー風の密室殺人劇で、『最後のジェダイ』のライアン・ジョンソン監督が脚本を書き下ろした作品だ。『ジュマンジ/ネクスト・レベル』も北米で大ヒット中。しかし、2年前の1作目は北米だけで興収4億ドル(約440億円)という素晴らしい数字をはじき出しており、この続編がそこまでの息の長さを見せられるかどうかは今の段階ではわからない。
次に「がっかり」組。この秋は、長い年月を経て作られた続編、あるいはリブート版の失敗が目立った。たとえば、『ターミネーター2』(1991)の直接の続編という位置付けの『ターミネーター:ニュー・フェイト』は、製作費1億8,500万ドル(約203億5,000万円)に対し、北米でたった6,200万ドル(約68億2,000万円)しか売り上げられなかった。『シャイニング』(1980)の続編である『ドクター・スリープ』は、製作費が4,500万ドル(約49億5,000万円)と控えめだったのでまだ痛手は小さいが、それでも北米興収3,100万ドル(34億1,000万円)というのは残念である。他には、エリザベス・バンクス監督の『チャーリーズ・エンジェル』が北米興収わずか1,700万ドル(約18億7,000万円)と惨敗。『ランボー』最新作『ランボー:ラスト・ブラッド(原題) / Rambo: Last Blood』も北米興収は4,400万ドル(約48億4,000万円)で、製作費5,000万ドル(約55億円)に見合わなかった。
続編もの以外では、エドワード・ノートンが監督と主演を兼任した『マザーレス・ブルックリン』が初登場9位、北米興収わずか900万ドル(9億9,000万円)という結果に。もっとひどいのは、アンセル・エルゴート、ニコール・キッドマンらが出演した『ザ・ゴールドフィンチ(原題) / The Goldfinch』で、こちらは4,500万ドル(約49億5,000万ドル)の予算を使ったのに、北米でたった500万ドル(約5億5,000万円)しか稼げていない。ブラッド・ピット主演の『アド・アストラ』も、評価は悪くなかったのだが北米で5,000万ドル(約55億円)の興収しか上げられず赤字になった。また『リチャード・ジュエル』は、大規模公開されたクリント・イーストウッド監督作としては史上最低のオープニング作品となっている。
今年1年の北米興行成績トータルは、およそ114億ドル(約1兆2,540億円)となる見込み。これは昨年に比べ4%ダウンだ。このうち32%をマーベル、ピクサー、ルーカスフィルムを傘下に持つディズニーが占めている。今年3月に買収が完了したフォックスも含めると、シェアは37%だ。来年も彼らの制覇は続きそうだが、『アベンジャーズ』『スター・ウォーズ』の完結編があった今年と違い、超目玉に欠けるだけに、来年度の北米ボックスオフィスは、今年よりさらに落ち込むのではと見られている。その予測を裏切る、意外なサプライズヒットが出てくることを願いたい。