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『童貞。をプロデュース』“性行為強要”問題、配給会社が声明発表

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iStock / Getty Images

 映画『童貞。をプロデュース』をめぐる一連の騒動について、配給会社・スポッテッドプロダクションズの代表取締役・直井卓俊氏が21日、声明を発表。経緯を説明するとともに謝罪した。

【写真】『童貞。をプロデュース』

 『童貞。をプロデュース』は、松江哲明監督が2人の青年を“脱童貞”させようとプロデュースした2部構成のドキュメンタリー映画。2007年に公開された同作だが、2017年に映画の10周年を記念して行われた上映会の舞台あいさつで、出演者の加賀賢三氏は、撮影で性的な行為を強要されたと主張。当時されたことへの抗議として、監督に自身の性器をくわえるよう迫った。

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 その後、松江監督と直井氏は連名の文書で加賀氏の主張を否定。しかし、昨年12月、加賀氏がこれまでの一連について語ったインタビュー記事がネット上に掲載され、騒動が再燃した。

 松江監督は「最近の加賀さんのインタビューを読んで、私が製作した『童貞。をプロデュース』の撮影、その後の上映を強引に進めてしまっていたことを改めて実感しました。加賀さんの気持ちを無視して、作品の完成、展開を優先してしまったことを、深く反省しています。申し訳ありませんでした」と謝罪。

 監督の謝罪を受け、直井氏も「2017年8月31日に松江監督と本作品の配給である弊社の連名で出した公式声明において、事実と異なる内容を発信してしまっていたことを厳粛に受け止め、心よりお詫び申し上げます」と声明を出していたが、今回あらためて経緯の説明と謝罪をするに至った。

直井卓俊氏のコメント全文

この度は、弊社の配給作品・映画『童貞。をプロデュース』(2007年公開)、それにまつわる、その後の様々な出来事について、皆様に不快な思いをさせてしまい申し訳ありません。昨年末に加賀賢三くんとお会いし、対話をさせていただきました。配給会社の立場として、改めまして経緯の説明とお詫びを記させて頂きます。(「加賀さん」「加賀氏」という呼び名がどうも慣れず、文中では自分の中で一番しっくりくる「加賀くん」と言う呼び方で書かせていただきます。)

まず、僕が『童貞。をプロデュース』に最初に出会ったのは、一観客としてでした。アップリンクを辞め、フリーランスとして SPOTTED PRODUCTIONS を屋号として名乗り始めた頃で、加賀くんが出演した「パート1」が完成・上映されていた、第1回ガンダーラ映画祭でのギャラリーを使った特設の小さなスクリーンで上映されていた時です。
誤解を恐れずに言えば、当時、一観客の僕には劇中の加賀くんのとてもピュアで魅力的な姿に心を打たれ、同時代性に優れたポップで素晴らしい青春映画だと感じ、打ち上げの席で松江監督に声をかけました。当時はDVD化できる企画を探したりセールスの仕事をしたりしていた頃で、いつか可能性があればご一緒できたらいいですね、と言う半ば挨拶程度の会話だったと思います。

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翌年、縁がありまして、第2回ガンダーラ映画祭に向けて新たに梅澤嘉朗くんが主演の「パート2」が撮影されるにあたり、ロケ地の交渉(劇中登場するシネマ・ロサ)などでお手伝いをさせて頂きました。「パート2」はゴミ処理場で働きながらブックオフ巡りに燃え、時空を超えて古い雑誌で出会ったアイドルに想い焦がれる梅澤くんを「そのままでいいんだよ」と肯定してあげるような眼差しの作品でした。両パート共に松江監督らしいお節介とかつての自分への叱咤激励のような、2パートで対になる青春映画で、2人の奮闘と迷走にかつての自分を重ね合わせて応援している自分がいました。

その後、撮影の際にお世話になったシネマ・ロサさんから、パート1とパート2を合わせて劇場公開しませんかと言って頂き、本作の生みの親でもある故・しまだゆきやすプロデューサーによる発案のインターミッション映像を追撮し、パート1とパート2の間に挟んだ構成で劇場公開版の『童貞。をプロデュース』として完成・劇場公開に至りました。

この劇場公開は、経費を全て自己資金で立て替えて、僕自身が生まれて初めて作品を預かっての本格的な配給デビューとなりました。その頃、預かりで籍を置かせて頂いていたバイオタイドさんと劇場であるシネマ・ロサさんのご指導の元、通常の映画興行と同様に、劇場と折半した配給収入から立替経費を回収し、配給手数料をバイオタイドさんへ、売上を製作者・松江監督へのお支払いという流れになりました。その後の地方上映は僕が全くの未経験なので、バイオタイドさんが中心となり配給を行いました。またその後も10年間に渡り、シネマ・ロサさんのご好意で年に一度行われた周年上映は僕が窓口を担当しました。(その際の配給手数料は弊社へ、売上は製作者・松江監督へお支払いしました。)

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そして、2017年の10周年記念上映の初日舞台挨拶に登壇してくれた加賀くんが、壇上で、松江監督に対して謝罪を求める実力行動に出て騒動となりました。当日、僕はステージにてMCを担当していました。正直、眼の前で起こっていることや状況がすぐには把握できず、情けない事に呆然と立ち尽くすばかりでした。
その後、この騒動に対して、撮影時の内容も含めての声明文を連名で発表する流れとなりました。前述の通り、僕は撮影現場にはおりませんでした。つまり「撮影時の内容」も含めて連名にする権利のない立場です。

それでも声明文を連名で出したのは、駆け出しのフリーランスの自分に配給業務を任せていただき、その後の『ライブテープ』や『フラッシュバックメモリーズ 3D』などの配給業務も含め、自分の映画配給の仕事を導いてくれた松江監督が紛れもなく、僕にとっての恩人であるという思いで一蓮托生のつもりでした。しかし、今考えると、その点は軽率だったと反省しております。

そして、昨年発表された加賀くんの「ガジェット通信」のインタビュー記事を読んで、加賀くんに配給としても個人としても、直接お詫びしたい気持ちと共に、何より直接話をしたいと思いました。そして、知り合いを通じて加賀くんと会うことができました。その対話の中で、初上映のシネマ・ロサが好評につき2週限定から3週に上映延長決定したあたりから加賀くんの様子が変わってしまった、という僕の認識と加賀くんの認識に齟齬があったという事がわかりました。
そこには、僕は「出演者」としての認識、加賀くんは「共同制作者」としての認識があり、今考えてみれば、配給として、彼がどの立場で参加しているかをはっきりせずに、曖昧に進んでしまっていたプロジェクトであった事は事実なので、今となっては、そこははっきりとさせて進めるべきであったと反省しております。

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撮影当時から加賀くんがずっと苦しんでいていた事、言い出しにくい中で後から関わってきた僕に対しても、問題となっている撮影時のこと、共同制作者であると言う主張も伝えてくれていたという事。今回会って話すまで、忘れていたことや記憶違い、認識違い、様々なすれ違い、当時の僕の未熟さゆえの理解不足もあり、本当に申し訳ない限りです。
配給としては映画の方向性を決める相談は常に松江監督と行っており、劇場も松江監督作品として扱っていたため、その辺りの認識のズレを見落とす事になっていたのだと思います。

先述の加賀くんのインタビューが発表された後、松江監督から撮影時・上映時のトラブルについて謝罪をしたい、弊社の公式サイトにアップしてほしい、と連絡があり、画像で送られてきた謝罪文を発表しました。その際に、先述の2017年の10周年記念上映のトラブルの際の対応として松江監督と連名で出した声明文で発表した内容が「強要問題はない」「事実無根」と断定していたため、訂正となる旨も明記すべきではないかとなり、僕が「事実と異なる内容を発信してしまった事へのお詫び」の一文を添えさせていただきました。しかし、言葉足らずのため、本来の意が伝えられず「どこが事実と異なる内容なのか」と各方面からお叱りを受けました。加賀くんの主張に耳を傾けることなく「断定」してしまったことは本当に反省しており、事の重大さと加賀くんの痛みをもっと慮り、丁寧な説明を心がけるべきであったと思っております。本当に申し訳ありませんでした。

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改めまして、2017年の連名の声明文の内容で、撮影及び制作現場で行われた事を知る由もない状態で、連名で出すべき内容ではなかったと反省しております。
また、10周年記念上映を上映中止にした経緯については、当時、壇上での加賀くんの行動の他、壇上に勝手に登って撮影を始めた観客の方や、煽るような声をあげる観客の方がいた事、それらが翌日にYouTubeに無断アップされるなど様々な異常事態が実際に起こりました。それらが通常の劇場が想定している“安全保証”の範囲を逸脱しているという理由での中止決定でした。映画の配給を生業としている身として、どんな理由があったとしても、あの様な行為を映画館内で行った事は今だに承服し兼ねます。そして先述の通り、何が起こっているかをすぐに把握できず、呆然と立ち尽くすばかりでお客様や劇場を守れなかった事は配給として、今でも後悔の念と情けない思いでいっぱいです。

2007年の上映当時の熱狂的な受け入れられ方、お客さんたちの笑顔と拍手。上映後に人気者になっていく、加賀くん、梅澤くんの2人が誇らしかったのを覚えています。さらに多くの人に観て欲しいと思い、著名人や評論家の推薦コメント、ブログやmixi(まだTwitterがない時代でした)での感想など当時の空気に支えられ、わけが分からずも無我夢中だったあの駆け出しの頃に見た熱気に満ちた光景が、ずっと今の仕事の原点にあり、自分を支えてきました。

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しかし、同時にその「多くの人に観て欲しい」と思い、上映を続けた事が、加賀くんの心を傷つけてしまっていました。本当に申し訳なかったと猛省しております。
またその一方で、本件に関して主にSNS上で飛び交った「観て笑った人も同罪」「声をあげない人も同罪」という主旨の言葉には、配給という仕事をしている人間として、とても傷つきました。勿論この映画に限らずですが、過去でも未来でも、上映時に劇場でお金を払って観てくださったお客様の鑑賞体験や感想に関しては、どんな時でも作り手側が強要する事ではなく、それぞれの自由に感じたままであってほしいと願っています。

先日の加賀くんとの対話の中で「直井さんには裏切られたと思っている」という言葉が発せられました。僕は作品・監督第一ということを信念でやってきた一方で、インディーズ映画という小さなコミュニティで、配給という役職を超えて、関わっている個々の人達に対して、例えその問題への理解が及ばないとしても、1人で解決できなければ周囲にもっと呼びかけて、粘り強く向き合っていかねばなりませんでした。それは映画人の前に1人の人間としてです。

13年前の未熟すぎた僕は、その後、配給会社を設立し、多くの作品に関わってきました。その中で、1人の人間として成長してこれたのかどうかはまだわかりません。僕は今も、20代や30代、時には10代の子たちの映画の企画を相談されたり、実際に関わる機会があります。未来のある若い作家・出演者たちの間で、今後このようなことが起きないよう、一つ一つの事案に目を背けずに向き合って行きたいと思っております。

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以上、できるだけ言葉を尽くしたつもりですが、言葉足らずや、意図が伝わりにくい部分があったらお許しください。

最後に、上映当時にご覧頂いた皆さん、本作の御関係者様各位、多くの意見を頂いた皆さん、これまでに弊社の企画・配給・宣伝作品で関わってくださっている皆さんに不安や不快な思いを与えてしまい、本当に申し訳ありませんでした。心よりお詫び申し上げます。

2020年1月21日
株式会社スポッテッドプロダクションズ
代表取締役
直井卓俊

(編集部・中山雄一朗)

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