キネ旬主演男優賞受賞の池松壮亮、“池松から宮本へ”賞を捧ぐ
老舗映画雑誌「キネマ旬報」が発表する映画賞「第93回キネマ旬報ベスト・テン」で主演男優賞を獲得した池松壮亮が11日、文京シビックホールで行われた表彰式に出席、苦難続きだった主演映画『宮本から君へ』に思いを馳せた。池松にとって同映画賞での受賞は、2014年・第88回で助演男優賞を受賞をして以来約5年ぶりとなる。
新井英樹の同名漫画に基づく2018年放送の連続ドラマ版に続いて、R15+指定の映画版『宮本から君へ』で主人公の熱血サラリーマン・宮本浩を続投した池松は、「名誉ある賞をいただきまして。光栄に思っております」とあいさつすると、スタッフや観客に感謝の思いを述べる。「言いたいことはたくさんあるんですが、うまく言葉になっておりません」と続けると、「つい先日、こんなエピソードがありました」と話し出した。
そのエピソードとは、『宮本から君へ』のDVD・ブルーレイ納品日の3日前に起きた出来事だったという。「その時にスタッフから電話があって。電話の向こうでものすごく怒っていたんです。DVD・ブルーレイ化にあたっては、いろんな作業工程がありまして。スクリーンの色温度をテレビ向けに変えないといけないし、DVDの盤面、パッケージ、キャプチャー画面をどうするかという最後の行程があるわけですが、どうやら今の日本映画はほとんどやっていないと。どうしてこうなんだということを僕に電話してきて……」と振り返った池松。そんな経緯も経て、修正すべき点は修正することになり、解決したという。
さらに「思えばこの作品はドラマから映画まで、ずっとそんなことばかりだったなと、ふと考え込んでしまいまして」と切り出した池松は、紆余曲折あった「宮本から君へ」をしみじみ振り返った。
「何か正しくないこととか、いつの間にかシステム化してしまったこととか。お金のなさ、時間のなさを理由にしてしまうこととかが、事なかれ主義とか、問題を先送りしてしまうような自分たちの悪い癖を、何とか自分たちで食い止めようと。誰かが怒っては、みんなでその壁を乗り越えて。やっと治まったと思ったら、誰かがまた怒っていて。そうやって現場にたくさんの“宮本”がいて。そのバトンがつながった先にこの場があると思うと、僕だけの力では到底及ばない場所だったなと思います」
続けて、主人公・宮本のキャラクターについて「宮本というキャラクターが、正しくないものに対してずっと声を出していて。血だらけになりながら戦う男の役で。キャラクターに変化を求めるみんなが鼓舞されて。何とかやり遂げることができたのかなと思っています。そうやってみんなで戦った、日々の勲章として、この賞をもらうとともに、池松から宮本へ、重めの賞を捧げることができたらなと思います」と受賞を噛みしめた。
最後に「2020年代に入りましたけど、いろんなところでそういった問題はきっと山積みで。もっともっと、何とか映画を先に進めるために、観てくださる方の、日々の生活を少しでも豊かに、小さな光を当てられるよう、これから日々、精進していきたいと思います」と思いを新たに。「あまり話がまとまっていませんが、うれしいということだけは確かです。多分今日、(トロフィーを)抱きしめて寝ると思います」と締めくくった。(取材・文:壬生智裕)