「鬼滅の刃」勢い止まらない!人気の理由
いまや社会現象的な人気漫画となった「鬼滅の刃」(作・吾峠呼世晴)。大正時代を舞台に、人を喰らう鬼と鬼を狩る者たちとの戦いを描いたダークファンタジーである同作は、2016年2月から「週刊少年ジャンプ」にて連載中。テレビアニメ版は、原作コミック7巻冒頭までの物語を“竈門炭治郎 立志編”として、昨年4月から、2クール(全26話)にわたって放送。今年は、本作初となる舞台も上演されたほか、続編となる『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』の公開が予定されている。その人気の理由は、原作そのものの魅力はもちろんだが、アニメ化が人気拡大の起点となった。そこで、アニメ版の特筆すべきポイントから人気の理由をひも解きたい。
原作の魅力
主人公は、家族想いの少年・竈門炭治郎。病で亡くなった父に代わり、長男として母親と幼い妹・弟たちを支えていた。しかし、不在時に家族が鬼によって惨殺され、唯一生き残った妹の禰豆子も鬼となる。炭治郎は妹を人間に戻すため、家族の仇を討つため、政府非公認の鬼殺隊の剣士となり、鬼狩りの任務に就く。鬼と戦いつつも、彼らに同情もする炭治郎は、復讐心に囚われず、妹を人間に戻す方法を探しながら、鬼に立ち向かうことになる。過酷な運命の中でも希望を捨てず、強い信念をもって戦い抜く姿は、誰もが応援したくなる少年漫画らしい王道の主人公だが、特にその優しさが、ファンを惹きつけた。また、激闘や修業を経て、仲間と共に成長していく展開は、王道のバトルマンガでもある。命を懸けた戦いのため、残酷でハードな描写も多いが、シリアスな中にも笑いがあるので、親しみやすい。敵も含めた多彩な登場人物それぞれの背景が描かれるため、感情移入しやすいことや、展開の速さも特筆すべきものがある。アニメ化によって、その物語と多彩なキャラクターの魅力を広く知らしめたことはファンを急増させた。
アニメ版ならではの演出と神作画
アニメーション制作は、『劇場版 空の境界』『Fate』各シリーズなどでも知られ、作品クオリティーの高さはもちろん、特に作画の美しさに定評があるufotable。原作に忠実にシナリオ化しながらも、アニメならではの演出と美しい映像により、ただの映像化ではない独自の魅力を持つ作品を創り上げた。特に同社ならではの豊かな表現力を堪能できるのが、激しいカメラワークでみせる戦闘シーン。炭治郎が使う水の呼吸の剣技は、葛飾北斎の浮世絵の波を動かすようなイメージで、作画と3DCGを組み合わせて表現されている。そして、最も話題となったのが、第19話「ヒノカミ」。初回と最終回以外では唯一EDも変わり、炭治郎の覚醒を描いた同回は、最後の戦闘シーンのすばらしさとも相まって、大きな盛り上がりを見せた。原作者が「作画、演出、音楽、全てが凄すぎてボロ泣きしました」とコメントしたほどで、ファンの間では“神回”とも呼ばれている。同回に限らず、全話で映画のような高いクオリティーを維持したことは、人気拡大に大きく貢献した。
豪華なキャスティング
主要キャラクターを演じるのは、炭治郎役の花江夏樹ほか、鬼頭明里、下野紘、松岡禎丞、櫻井孝宏ら人気声優たち。登場人物が多いため名前をあげるときりがないが、緑川光、梶裕貴、加隈亜衣、子安武人、福山潤、小松未可子、坂本真綾、山下大輝、杉田智和、鈴村健一、関俊彦、関智一、花澤香菜、早見沙織、千葉繁、浪川大輔らも参加。1話のみの敵役でも、若手からベテランまで、確かな演技力を持つ豪華な顔ぶれが演じている。
音楽との融合
オープニングテーマを歌うのは、人気アーティストのLiSA。彼女が炭治郎をイメージして作詞したOP「紅蓮華」は、大ヒットとなり、初出場した昨年のNHK紅白歌合戦でも歌われた。また、劇中の音楽は、これまでもufotableの作品に数多く参加してきた梶浦由記と椎名豪が担当。各話ごとに映像にあわせて音楽を作る手法がとられているため、主題歌、劇中音楽ともに、統一した世界観を持った上で、物語を最大限に盛り上げるものとなっている。
豊富な視聴環境
まずアニメ第1~5話で構成された特別上映版『鬼滅の刃 兄妹の絆』を、2019年3月29日から全国の劇場11館で限定上映。そのクオリティーの高さは放送開始前から話題となり、小規模公開ながら好成績をおさめた。そして、2019年4月6日を皮切りに、TOKYO MX や各地方局とBS11などの各深夜枠で、半年にわたって全26話を順次放送。ほぼ同時期に主要な20社もの動画サイトで配信されたことで、インターネット環境があれば全国各地で好きな時に観ることができ、評判を聞いて途中から観たくなった人も後追いで観ることができた。
人気の過熱ぶり
連載漫画がテレビアニメ化を経て、その人気を拡大することはよくあるが、ここまでの爆発的な盛り上がりはまれなこと。出版不況の最中、アニメ化以前は累計350万部だった原作コミックの累計発行部数が、放送中に1,200万部まで伸び、今年2月4日発売の最新19巻までの電子版を含む累計で4,000万部を超えたのは驚異的だ。特にアニメ版放送終了後の急伸ぶりは、その続きを知りたい人がいかに多いかを示している。アニメ版のソフト売り上げも好調で、各種グッズも売り切れが続出。それらを扱う各メーカーの株価にも影響を与えているほか、アニメ版が昨年のYahoo!検索大賞とTwitterトレンド大賞のアニメ部門賞を受賞。その人気の過熱ぶりが度々テレビの情報番組でとりあげられ、幅広い層から関心を集めたことは、ブームをさらに加速させた。そんな中で公開される『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』は、その盛り上がりにさらなる拍車をかけることができるのか。そして、その劇場版が、どんな作品となるのか。大ヒットへの期待も込め、その公開が楽しみだ。(天本伸一郎)