新たな試み!?オンラインで完成披露を実施した『もったいないキッチン』
日本の食品ロス問題の現実と未来を考察するロードムービー『もったいないキッチン』(8月公開)の完成披露試写会が2日、行われた。当初は東京・渋谷のユーロライブで行われる予定だったが、新型コロナウイルスの感染拡大状況を鑑み、WEB会議ツールZoomを活用したオンラインに変更された。新作映画は軒並み公開延期、完成披露試写会は無観客、マスコミ試写も多くが中止となっている今、新たな試みは注目を浴びそうだ。
Zoomはパソコンやスマートフォンを使ってセミナーや会議をオンラインで行えるように開発されたアプリで、新型コロナウイルス対策でテレワークへと移行している昨今、一般企業ではすでにお馴染みだ。ただ労力をかけた新作映画は、上映環境の整った大スクリーンで味わってほしいという思いが製作者にある。並びに盗撮防止対策も万全ではないことから、商業映画の初披露の場としては二の足を踏むところだ。
しかし今回はやむにやまれぬ事情があったようだ。当初は、世界80か国以上で食糧支援を行う国際機関・国連WFPの協力を得て、3月26日に国連大学で予定を組んでいたという。また同日夜には、作品にも登場する福島・いわき市で有機農家を営むファーム白石の白石長利さんも参加する試写会も同市で企画していた。それがいずれも中止に。改めて組んだ4月2日のユーロライブでの完成披露試写も、日に日に感染拡大が深刻となり中止を決定。
ただすでに完成披露試写会の案内は送付済みで、大勢の人がこの時間の予定を立ててくれていることを考慮し、オンライン開催を決断した。参加者には事前に、URLとパスワードが送付され試写会にアクセスできるよう手配した。同作の関根健次プロデューサーによるとこの日のために、2日に渡って上映環境のテストを行ったという。
この日は映画の上映のほか、オーストリア在住で渡航規制により来日できなかったダーヴィト・グロス監督のビデオメッセージが流されたほか、関根プロデューサーをはじめ日本各地に在住する出演者のオンライン舞台あいさつも行われた。グロス監督は「日本に行けなくて残念ですが、心は皆さんとともにあります。お会いできる日を楽しみにしています」とメッセージを寄せた。
オンライン上で約100人が新作映画を鑑賞するというめったにない体験だったが、参加者にはおおむね好評だったようだ。Zoomにはチャット機能があり、上映中に感想を書き込む参加者もいれば、出演者で料理僧として食育に取り組んでいる東京・浅草の浄土真宗東本願寺派湯島山緑泉寺住職・青江覚峰さんが「いいところなのですが、そろそろお経を唱える時間なので」と途中退出するという微笑ましい一幕もあった。
さらに青江さんは「新型コロナウイルスでただ悲しむだけではなく、こういった機会をいただけたことをうれしくも思います」とつづれば、他の参加者も「映画を観ながら参加者が意見を交換できる試写会、素敵ですね。新たな可能性を感じます」と書き込み、コロナ騒動で多くの人が不安に駆られながら自宅待機をしている今、皆で映画を鑑賞することや人とつながることの楽しさを噛み締めていたようだ。
同作は、フードアクティビストとしても活動しているグロス監督が、欧州5か国を巡って捨てられる運命にあった食材をおいしい料理へと救出する前作『0円キッチン』(2015)に続くドキュメンタリー。グロス監督が同作のキャンペーンで来日した時に、配給を手掛けた関根プロデューサーと意気投合。日本が世界トップクラスの食品ロス国家であることから、その問題に取り組もうと約3年かけて完成させた。8月の公開は今のところ変更はないという。
関根プロデューサーは最後に「コロナ収束後の世界の道標になるような映画になっているのではないかと思い始めてます。これまでの大量生産・大量消費・大量破棄という自然もわたしたちも傷つけるシステムから、今一度、自然との関係、生きとし生けるものへの感謝の気持ち、わたしたちは生かされているのだという感覚を取り戻すこと。そしてサステナブルな世界へと展開すること。それらを、料理を通して(わたしたちの意識を)転換させることができれば」と作品への思いを語った。(取材・文:中山治美)
映画『もったいないキッチン』は8月よりシネスイッチ銀座、アップリンク吉祥寺ほか全国順次公開