ミニシアター支援のクラウドファンディング開始 13日に深田晃司、濱口竜介ら会見
全国の小規模映画館が閉館の危機にさらされるなか、「ミニシアター・エイド基金」による小規模映画館支援のためのクラウドファンディングが本日(13日)よりスタートした。
新型コロナウイルスの感染拡大による緊急事態宣言が発令され、補償が不明瞭な中、政府からの自粛要請が続き、全国の小規模映画館が危機的状況を陥っている。5日、映画監督の深田晃司(『淵に立つ』『よこがお』など)、濱口竜介(『ハッピーアワー』『寝ても覚めても』など)が発起人となり「ミニシアター・エイド基金」の立ち上げを宣言。署名活動を通じて政府への提言を進めている「SAVE the CINEMA」とも連携して、活動していく。
なお、13日16時から18時までDMMUNE(https://www.dommune.com/)で「ミニシアター・エイド基金」キックオフイベントとして記者会見が実施される。発起人である深田、濱口監督のほか、浅井隆(アップリンク代表)、全国の劇場支配人が中継をつないで参加予定。
深田、濱口監督のステートメントは以下の通り。(編集部・石井百合子)
【発起人である深田晃司監督、濱口竜介監督のステートメント】
日本を訪れた世界の映画人が等しく感嘆と賞賛の声を挙げるのが、ミニシアター文化の存在です。なぜこれほどまでに国家の支援の少ない国で、シネコンとは違う、非常にローカルでユニークな映画館が日本中に存在できているのか、と。撮影所システムの崩壊後に広がったミニシアターの存在によって、私たちは娯楽大作だけではなく、様々な国、様々な時代の映画を鑑賞することが叶いました。
そこでの鑑賞体験がどれだけ映画を愛する人たちの人生を豊かにし、映画ファンを育てたか。また私たち映画監督や映画人にとっては作品を映画ファンに届けるための貴重な「場」をミニシアターが創出してくれたか、感謝してもしきれません。そのミニシアターが、今まさに危機的状況にあります。それはつまり、映画の多様性の危機であると言えます。
そもそもなぜ、映画の多様性は守られるべきなのでしょうか。その方が面白いから。それも大事ですが、さらにひとつ理由をあげるとすれば、それは民主主義を守ることにつながるからです。民主主義の本質は多数決ではなく、いかに多様な視点を掬い取り社会設計に取り込んでいくかですが、そのためにはまず、多様な価値観が社会に可視化されてなくてはなりません。耳に届かない声、目に見えない感情を可視化するのに、文化芸術の果たす役割はとても大きいと言えます。ある作家がカメラで世界を切り取り人間を捉え、そこにはいない誰かへと届けることのできる映画もまた、世界に多様性をもたらす強力な表現のひとつです。
日本においてミニシアターはその多彩なプログラムによって、世界の多様性に貢献し続けてきました。外国の映画人からミニシアター文化を無邪気に賞賛されると、我が事のように誇らしくなる反面、素直には喜べない複雑な思いもまた抱かされます。なぜなら、特に地方の多くのミニシアターが、経済的にギリギリの状況で、そこに携わる人々の人生を犠牲にするような覚悟によって成り立っていることを知っているからです。
今回のコロナウィルスのような有事に、まっさきに存続の危機に立たされるのは、大手の資本のバックアップもなく、ときに家内工業のような規模で営まれる多くのミニシアターです。平時においても、日本は諸外国と比べ映画館にはほとんど文化予算が降りることはありません。本来なら、こういったときこそ国が支援に乗り出すべきだと思いますし、私たちは文化芸術の公的価値に見合った支援を今後も要求し続けなくてはなりませんが、今はそれを待っている時間もありません。
ぜひ、映画の多様な文化を絶やさないためにも、ミニシアターの支援にご協力ください。
最後に。なぜ配信隆盛のこの時代に映画館なのか。簡潔に言えば、私たち映画製作者は、映画を作るときにスクリーンに上映されることを前提に、映画館で最高のポテンシャルが発揮されるように映像も音も設計するからです。配信やテレビで鑑賞するのも構いません。ただ、それはいわば画集のようなものです。画集はとても見易いですが、だからと言って美術館が不要になるわけではありません。
発起人:深田晃司(映画監督・独立映画鍋共同代表)
深田さんが上に書いてくださっていることに、全く同意します。
なので、私(濱口)が書くのは蛇足ですが、個人的な思いのみ、書きつけます。
私はミニシアターの存在によって、映画ファンに、そして映画監督にしてもらった、という思いがあります。その「恩返し」のために今回の基金の発起人として名を連ねました。その誇るべき文化をなくすことは決定的損失です。今、動かなくてはなりません。同じ思いを持つ、映画ファンの皆さんの参加と協力をお待ちしています。
深田さんの書かれた通り、ミニシアターの多くは市民団体や、ときに一個人など「有志」とも言うべき人たちによって支えられています。劇場の規模が小さいということは、収益の規模もまた小さいということであって、利益を期待するのみで、運営することはできません。映画というメディアがこの世界において持つ価値を信じる人たちがいなくては、決して成立しない場です。ただ、志のみでは現在の状況を持ちこたえることはできないでしょう。
私が監督として参加した『うたうひと』というドキュメンタリー映画の制作中に、出演者である小野和子さんという方から、少なからぬ額のカンパを手渡されたことがあります。恥ずかしいことに、制作資金の不足を見通されてのことでした。小野さんはそのとき「お金なんかに負けちゃダメよ」と言いながら、そのお金を渡してくれました。このことが深く心に残っています。お金に負けずに志を持ち続けるには、最低限のお金がやはり必要なのです(ただそれは、何より志のために必要なのです)。
とは言え現在、大多数の人が日々、不安の中にいると思います。あくまで自分の生活を最優先に、物・心両面で支障がない範囲での支援をお願いしたいと思っています。相対的に「余裕のある人」が少しだけ、現時点でそれの「ない人」にシェアするだけでよいのです。「余裕」そのものを社会全体が保持するよう、個々に分配する、その方策の一つとして、この基金があるものとしてご理解ください。
公に向けたアクションを並行して進めることも、非常に重要です。あくまでこの基金は、劇場や関係者がまとまった公的補助を得るまでの「つなぎ」です。ただ公的機関が動くまでには一定の時間を要するでしょう。まずは緊急支援策として、1映画ファンとして映画ファンコミュニティでの「互助」を可能にするために、このプロジェクトを立ち上げました。
他の業種も等しく危機に瀕していることは重々理解をしています。同様の試みが、必要とされる、あらゆるジャンルで「有志」によって始まることを願っています(意外とここから、新たな経済の形が始まるかもしれません)。
目標金額は、私自身、一生で一度も見たことのないような金額です。本当に、お一人お一人の力が必要です。ご理解と、ご協力を賜われたら幸いです。何卒、よろしくお願いいたします。
発起人:濱口竜介(映画監督)