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こだわって撮っているからこそ、大きなスクリーンで観て欲しい~入江悠監督

がんばれ!ミニシアター

入江悠監督
入江悠監督

 新型コロナウィルスの感染拡大に伴い発令された緊急事態宣言が解除され、現在全国の映画館では、少しずつ営業を再開しているが長期の休業が続いた経営規模の小さなミニシアターでは閉館せざるを得ない可能性もある危機が続いている。今だからこそ、ミニシアターの存在意義について、今の日本映画界を担う映画人たちに聞いてみた。

 2009年に公開した埼玉県の田舎町を舞台にした『SR サイタマノラッパー』(2009)が全国各地のミニシアターでロングランヒットを記録し、今では『AI崩壊』(2020)など多くの作品を精力的に世に送り出している入江悠監督。入江監督にとって、『SR サイタマノラッパー』のロケを敢行した埼玉県深谷市は自身の生まれ育った故郷でもある。

「子供の頃は、地元に映画館がなく、映画好きな両親に連れられて、地元の市民ホールで上映していた映画をよく観に行っていました。子どもが好きなドラえもんシリーズはもちろん、『ターミネーター』(1984)や『バック・トゥ・ザ・フューチャー』(1985)や角川映画など、さまざまな映画を観て、劇場に行く楽しみを教えてもらいましたね」と話す入江監督は、小学生の頃、放課後に通っていた学童保育で、上映されていた移動映画館の映画を楽しみにしていたという。

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 そこで観た、『夢のチョコレート工場』(1971年)や赤毛の女の子が活躍する『長くつ下ピッピの冒険物語』(1988)は子供だった入江監督の心を躍らせた。実は、このとき自主上映を行っていた男性こそ、2002年にオープンした深谷シネマの支配人・竹石研二さんであり、竹石さんがカメオ出演も果たしている『SR サイタマノラッパー』以降、自身の作品も深谷シネマで数多く上映されてきた。今では入江監督にとってなくてはならない大切な映画館となっている。

 高校生になった入江監督は、当時、近い存在だった映画に将来の道を見た。「自分がやってみたいことをいろいろ考えて、消去法で映画になった程度」と言うが、多くの映画を観て育った入江監督の心に映画作りはきっと魅力的に映っていたのだろう。その後、日本大学芸術学部映画学科監督コースへと進んだ。大学生になってからは、若者たちにとってのカルチャー発信地でもあったシネマライズやユーロスペース、シネクイントに通い、ヴィム・ヴェンダースやレオス・カラックスを始め、独立系からクラシックの名作まで多くの映画を観に行った。

「大きなスクリーンで観るジョン・カサヴェテスの映画は、高校生の時にレンタルビデオで観た映画とは感覚がまったく違っていました」と入江監督は振り返る。「やっぱり体験の感覚がまったく違いますね。大きなスクリーンで観られるということはもちろんですが、家という空間では映画館ほど集中できないので。映画館の暗闇で集中して観るからこそ、ながら見では気づけないところがあったり、監督がさりさげなく入れている小さな音に気付いたりするんです。ライブハウスと同じで、映画館で観てもらいたい」と映画館で観ることの特別な感覚を語った。監督自身の映画作りも常に映画館を意識している。

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 「もちろん上映後にブルーレイや配信など、テレビの画面で観る機会の方が長期的には多くなります。それでも僕はいつも映画館で上映することにフォーカスして映画を作っているんです。音や、俳優の瞬き一つこだわって撮っているからこそ、映画館で観て欲しい。それは多くの監督が同じ思いだと思います」

「もうすぐネットで配信されるから」と映画館に行くことをためらう人たちは増えてきている。だが入江監督の話す通り、映画監督は皆、映画館で上映するための映画を作っている。だからこそ、あの大きなスクリーンに映し出される監督や、役者の熱を映画館で感じることは最高の映画体験につながるはずだ。

 監督と縁の深い深谷シネマもまた、コロナ禍の影響で、経済的に大変な状況であることは間違いない。だが、入江監督が連絡したときはいつもの明るい声が返ってきたという。

「いろんな苦労をしてきた方たちだから、タフなんです。心が強いから、映画館そっちのけで、全国の移動映画館をどうするかっていう話をしてくれていてホッとしました」

 入江監督ら、日本の映画監督の有志が立ち上げたミニシアターエイドは、バラバラだった映画館や製作者が繋がるようになった。そして全国から集められた寄付金は3億円を超えた。しかし、いつまで続くかわからないコロナの影響と、国からの支援状況もままならない中で、ミニシアターはまだまだ歯をくいしばる時期が続いている。

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 「監督や俳優は映画館に育ててもらっている。僕らも、自分たちの映画をお客さんがどういう反応をしているのかという生の反応をそのまま感じられる場所。上映してもらうと、劇場が赤字になるかどうかまですごく気になるし、正直な意見を伝えてくれる支配人さんと話すことも、ミニシアターならではの上映後のQ&Aも、また僕ら映画作家にとってはとても大切なことなんです。たくさんの人たちに地元に映画館があることの素晴らしさを感じて欲しいし、もしも地元に映画館がなかったとしても、この国の文化や芸術をもっと多くの人が声をあげて、熱く支援するべきだと思います。芸術や文化が人を豊かにすることを感じてもらいたい」

 ミニシアターは、入江監督にとって「人生で辛くなったときにも意義がある場所」だという。

 「映画館で映画を観ている時間は、家の中とは違うあり方で心と体を休めさせてくれる。この時代、なんでもない自分になれる場所ってなかなかないから。ほっとできる場所なんです。若い人はみんな感性が豊かなので、失敗したり落ち込んだりしたときにでも、ふっとミニシアターに飛び込んでもらえたらと思います」(森田真帆)

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