怖い『透明人間』が復活!現代ホラーマスターの挑戦
映画『ソウ』『インシディアス』シリーズなど大ヒットホラーを次々と生み出すクリエイター、リー・ワネルが監督と脚本を手掛けた新作『透明人間』が日本公開を迎えた。700万ドル(約7億7,000万円という、ハリウッド映画としては破格の低予算ながら、全米ナンバー1ヒットを記録し、作品的にも高評価を獲得。SFの大家H・G・ウェルズの原作を基にした、1933年の同名ユニバーサルホラーを現代版として見事にリブートしたものだが、ワネル監督は「自分が手がけることになるとは、全く思っていなかった」と語る。(1ドル110円計算)
「この話が僕のところに来た時、最初はとても奇妙なものに感じた。でも、アイデアを提案されて、すぐに(昔の作品と比べて)どれだけ違うものがやれるか、と考えた。まだ観たこともないバージョンの映画があるように感じられて、それを是非やってみたいと思ったんだ」
そこでワネル監督は、本作を透明人間から逃げる女性の視点から描くことにした。「アイコニックな悪役を描く上でのゴールは、彼をもう一度怖い存在にすることだった。でも、ドラキュラや透明人間といった(ユニバーサル・ホラーの)悪役たちは今、どこかそのパワーを失っている。ドラキュラは(3Dアニメーション)『モンスター・ホテル』で可笑しい存在になっているしね。でも、ブラム・ストーカーの原作小説を初めて読んだ人たちは、きっとすごく怖かったと思う。血を吸うクリーチャーというのは、斬新な設定だったしね。だから、透明人間をもう一度すごく怖い存在にするために、僕は被害者を主人公にしないといけなかったんだ。そこから、観客が被害者の視点で物語を体験できるように、主人公のセシリアが透明人間に追われるというアイデアを思いついた」
透明人間となる天才科学者エイドリアンの恋人・セシリアを演じたのは、大ヒットドラマ「ハンドメイド・テイル」「マッドメン」などで知られる、演技派女優のエリザベス・モス。ワネル監督は「セシリア役はモス以外、考えられない」と彼女の仕事を絶賛する。
「彼女は、僕にはない女性からの視点を持っていて、とても手助けになった。『私ならこうする』と意見をくれるし、僕もそういったアイデアに対してオープンだ。僕は、自分の脚本のセリフにこだわるタイプじゃない。望んでいるのはできるだけベストな映画を作ることで、そのためには、役者との話し合いが必要不可欠だ。彼らと5分話すだけで、とても印象に残るセリフが生まれたり、映画をもっと良い方向に導くアイデアが出てきたりする。彼らとの話し合いは、金を発掘するようなものなんだ」
現代版としてリブートされている本作だが、映画全体には、どこか往年のハリウッド映画の雰囲気が漂っている。ワネル監督は今回、スリラーの巨匠アルフレッド・ヒッチコックを模範したという。「脚本を書くのにあたって、ヒッチコック映画をたくさん観たよ。それに、作曲家のベンジャミン(・ウオルフィッシュ)と、(ヒッチコック作品を多く手掛けた作曲家)バーナード・ハーマンの激しく攻めてくるようなスコアについてもかなり話し合った。ほかにも、映画全体にヒッチコックの影響がかなり入っているんだ。舞台がサンフランシスコだったり、閉所恐怖症的な空間を描いたりね」
ただ、ホラーマスターとしてハリウッドで活躍するワネルでも、恐怖シーンに観客がどんな反応を見せるのか、今でも予想はできないという。「全ての映画はギャンブルだよ。一か八か、やってみるんだ。バロメーターは自分自身さ。もし、自分で怖いと感じるものを見つけたら、他の人もそう感じることを期待するんだ。僕らはみんな人間。そんなに違わないからね。でもホラー映画は面白い。時々、本当に怖いと思うところであまり反応がなくて、地味なシーンの反応がよかったりするんだよね」(細谷佳史)