童顔にハスキーボイス、揺るぎない日常感!伊藤沙莉の躍進が止まらない
あ、また伊藤沙莉が出てる! ここ数年、映画にドラマに途切れることなく新作が連打される女優、伊藤沙莉(26)。ドラマ「いいね!光源氏くん」で千葉雄大と共演、テレビアニメ「映像研には手を出すな!」で声優としての実力も示し、映画『劇場』『ステップ』と7月だけで2本の映画が公開され、いくつかの単発ドラマをやりつつ、今後も続々と新作映画が公開される。小さな役でも際立つ存在感を放つ個性的な存在だった彼女がいよいよ、メジャー級の女優としてお茶の間に認知されようとしている。果たして、伊藤沙莉の魅力とはなにか?
子役時代からキャリアをスタート
伊藤沙莉の女優としてのスタートは9歳。子役としての彼女が認知されたのは、2005年のドラマ「女王の教室」だったか。当時11歳。天海祐希が冷徹な鬼のように生徒の前にそびえ立つ教師を演じた学園ドラマで、志田未来、福田麻由子ら“天才子役”と呼ばれた面子が顔をそろえた作品だった。
いま観ても、志田と福田は「子役」の演技をはるかに超越している。伊藤沙莉もまた当時からナチュラルな演技で、こんな小学生いるよな~と思わせる。教室のシーンで決していつでも目立つ役柄ではないのだが、それでいて見つけるのは簡単。なぜなら、あのハスキーボイスはいまと全然変わらないから! っていうか、顔もおんなじだし! 「名探偵コナン」のコナンくんみたいに、なにかの薬で小さくなった伊藤が小学生を演じているよう。見た目が小さくても、すでに完成されている。
その役がまとうべき生活感を漂わせる
改めて注目されるきっかけは2017年、連続テレビ小説「ひよっこ」。伊藤にとって初めての朝ドラで、「米屋の娘だから」と名付けられた安部米子という名前を毛嫌いしてみずから「さおり」と名乗る女の子を演じた。安部米店は、ヒロインの幼なじみである角谷三男(泉澤祐希)が高校卒業後に就職したところで、さおりは三男を好きになり猛烈なアタックを仕掛ける。安部米店のシーンは、ちょっとした笑いが起きるのが定番。父親役の斉藤暁も丸顔で、伊藤とただ並ぶだけで「父娘、だよね~!」と思わせるに充分な説得力だった。さおりは年頃の恋する娘ではあるけれど、東京の下町で昭和っぽいエプロンをつけ、米屋の看板娘としててきぱき働く姿がなんとも伊藤にハマっている。その役が身にまとっているはずの生活感を、とてもナチュラルに醸し出すのが彼女の得意技に思える。
そのせいだろうか? まだ26歳なのに、主婦や子供のいる役が抜群に似合う。群馬の田舎町にある「扱う品物はゴミ以外」というリサイクルショップを舞台にした映画『榎田貿易堂』(2018年)ではバイトの主婦役。今泉力哉監督による映画『パンとバスと2度目のハツコイ』(2018年)ではヒロイン・ふみの子持ちの女友達・さとみを演じている。ふみというのは、「付き合ったり結婚してないから一緒にいられる、ってあるのかな?」などと独自の思考をいつでも頭の中で転がすような、現実から数センチ浮き上がったような女の子。それを深川麻衣がなんの疑問もなくサラっと演じるように見えるのだが、その「え? え?」と思いたくなる発言を受け止め、ちょっと低い地声で「なにそれ?」と鋭くツッコむのがさとみなのだ。しかも実は過去、さとみはふみに対して特別な感情を抱いていたという設定でもある。複雑な役どころも伊藤が演じると、地に足のついたキャラクターに見えてくるから不思議。
東出昌大が一人二役を務めた映画『寝ても覚めても』(2018年)では唐田えりか演じるヒロイン・朝子の女友達・島春代を演じた。朝子もまた、実際にいたら、え~!? と思う行動をとる、現実離れしていて、ある意味で生々しいキャラクター。そんな朝子を唐田はこれまた素直に演じるのだが、その朝子に、現実的な言葉を投げるのが春代。伊藤は、観客とどこか地続きな役をやらせると、キチンとリアルに着地させる。まだ二十代で、そんなことができる女優はそういないだろう。
役を通して人間性が透けて見える
個人的に「この面白い子は?」と彼女に注目したのは2016年のドラマ「その『おこだわり』、私にもくれよ!!」だった。清野とおるの漫画を原案にしたフェイクドキュメンタリードラマで、松岡茉優がMCを任されたバラエティー番組をその制作の裏側も含めて描くというなんちゃってドキュメントに、松岡と仲良しの女優・伊藤沙莉として出演。本人まんまの風情でカメラ前に立ち、素のようにセリフを言い、ときにアドリブをかますーーかなり高度な“演技”を求められたはずだが、ここでの伊藤はリラックスして撮影を楽しむように見えるし、一方で、爪痕を残すぜ! という気迫を漂わせながら前に出過ぎないバランス感覚を発揮した。
話題を呼んだドラマ「全裸監督」(2019年)では撮影スタッフの紅一点のメイクさんを演じた。アドリブ合戦だったらしい撮影現場で、村西とおる役の山田孝之以下、濃厚な共演者を相手にしても堂々たる“そこにいる”感を漂わせた。ドラマ「ペンション・恋は桃色」(2020年)はさらにその先。リリー・フランキーが寂れたペンションを営む脱力系のバツイチ中年・シロウを演じ、そこに居つく訳ありな男・ヨシオを斎藤工が演じるこのドラマで、シロウの娘を演じた。ドラマの最後にフリートークのコーナーがあるのだが、リリーと斎藤という、俳優のなかでもしゃべりのプロのような年長者を相手に、もはや役柄とか本人とか線引き不可能な佇まいで楽しそうにしゃべれるって……完全に年齢を超えている。
アニメ「映像研には手を出すな!」(2020年)での声優もインパクト大。声だけで、役柄にこれほどの説得力をもたせられることに驚愕し、個性的なハスキーボイスが声優としても得難い個性だと気づかせた。
映画『劇場』では、山崎賢人演じる主人公が主宰する劇団「おろか」の劇団員。映画『ステップ』では、山田孝之演じるシングルファーザーの一人娘を担当する保育士さん。前者では例の、その役がまとうべき生活感を漂わせてリアルなキャラに仕立て、後者ではまさかのほんわか系保育士さんとして観客に意図せぬ涙を流させた。
今後も、主演の一人を務める連作長編映画『蒲田前奏曲』、黒木瞳が監督を担う映画『十二単衣を着た悪魔』、「全裸監督」の武正晴監督による映画『ホテルローヤル』と公開作は目白押し。「若くて顔がキレイ」がウリではなかっただけに、これから年齢を重ね、深みや重みや面白味は増すばかりなはず。いったいどんな女優になるのだろう? まったく計り知れない。(浅見祥子)