綾野剛の変わらぬ魅力!デビューからブレイクまで映画9選
TBS系で放送中の連続ドラマ「MIU404」で、警視庁刑事部・第4機動捜査隊に所属する刑事・伊吹藍を演じる綾野剛。劇中では星野源演じる志摩一未とタッグを組み、軽快な会話劇を披露しているが、綾野といえば作品ごとに見せる顔がまったく違うことでも有名だ。そんな綾野のデビュー初期から現在に至るまでの出演作を振り返り、その変わらない魅力を紹介したい。(磯部正和)
『Life ライフ』(2006)
地方でキャンドルアーティストとして活動している勇(綾野)は、高校の同窓会が開催される前日に見知らぬ女性から掛かってきた留守電に導かれるようにして茜(岡本奈月)という少女に出会う。さらに赴いた同窓会では、周囲の人々の変化に敏感になり、自分だけがとり残されたような感覚で心をやられてしまう……。大きな事件や出来事は起きない。さらに勇の心に宿した痛みは、人によっては理解できないものかもしれない。しかし、ゆっくりとした時間に合わせて、綾野の持つなんともいえない優しさをまとった空気感が、田舎の風景と相まって美しい。
『クローズZERO II』(2009)
高橋ヒロシの大人気コミック「クローズ」を三池崇史監督が実写映画化した『クローズZERO』の続編。本シリーズは小栗旬、山田孝之という2人を中心に、暴発寸前の俳優たちが跋扈(ばっこ)するのが魅力の一つだが、綾野が演じた鳳仙学園2年の漆原凌のインパクトは抜群。一見知的にも見える風貌の漆原だが、ひとたび暴れ出すと手が付けられないぐらいキレキレの動きを見せる。“緩急”という意味では、どのキャラクターよりも利いていた。『Life ライフ』とはまるで別人。続けて観ると、綾野のふり幅の大きさに驚くだろう。
『そこのみにて光輝く』(2013)
第2回三島由紀夫賞候補となった佐藤泰志による小説を映画化した本作。北海道函館を舞台に、社会の底辺でもがいている人々を生々しく描いている。綾野は仕事を辞めふらふらしているなか、パチンコ屋で出会った拓児(菅田将暉)の姉・千夏(池脇千鶴)と恋仲になっていく青年・達夫を演じる。この達夫には深い闇がある。それは採石場で働いていたとき、部下を事故で死なせてしまったこと。そのため、酒浸りで現実逃避を繰り返し、自暴自棄な生活を続けている。しかし、本来の達夫は愛にあふれた実直な男。そんな本質をところどころで嫌らしくなく垣間見せるところが綾野の俳優としてのすごさ。しかも色っぽく見せられるのは、大きな特長だろう。綾野、菅田、池脇という実力のある俳優たちのぶつかり合いも必見だ。
『新宿スワン』(2015)
和久井健による人気コミックを園子温監督で実写映画化。綾野は、新宿歌舞伎町を舞台に、一旗揚げようとする水商売・風俗・AVなどのスカウトマン・白鳥龍彦を演じている。龍彦はアンダーグラウンドな世界に身を置いていながら、「スカウトした女には幸せになってもらう」という信念を持っている純粋で熱い男。ある意味で裏表がない。こういったキャラクターを綾野が演じるのは珍しく、なにも考えず龍彦を追っていれば、楽しめるという意味で、貴重な作品といえる。ポップな綾野剛もいいなと思わせてくれる作品だ。
『ピース オブ ケイク』(2015)
ジョージ朝倉の人気コミックを、俳優としても活躍している田口トモロヲが映画化。周囲に流されるままに生きてきた女性・梅宮志乃(多部未華子)が、綾野ふんするバイト先の店長・菅原京志郎と出会ったことで、本気の恋をする姿を描く。本作の京志郎は、なかなか煮えきらない。一言でいうと優柔不断。しかし、女性が惹かれていってしまう要素が体中からあふれていて「好きになっちゃうんだろうな」という説得力がある。綾野のこういったストレートな恋愛映画はあまりなく新鮮だ。
『日本で一番悪い奴ら』(2016)
2002年に北海道警で起きた「日本警察史上最大の不祥事」と呼ばれる稲葉事件をモチーフにした本作。綾野は「市民のために」という高い志を持ちながらも、警察内で結果を残すために、裏社会とズブズブになることもいとわず、最終的には自身も覚せい剤取締法違反などで逮捕されてしまう主人公・諸星要一を演じている。白石和彌監督作品だけに、アンダーグラウンドを描きながらも、ポップでコミカル。諸星のモデルとなった稲葉圭昭氏のビジュアルと綾野はまったく違い、綾野自身も「なかなか来そうにない役」と話していたが、劇中では見事に人間の脆さを表現している。
『怒り』(2016)
吉田修一の同名小説を、李相日監督が映画化したミステリー群像劇。八王子で起きた凄惨な殺人事件の現場に残された「怒」の血文字。それから1年後、千葉、東京、沖縄で殺人事件に隠された3つのストーリーが展開される。綾野は妻夫木聡演じるゲイの優馬の恋人・直人を演じる。本作のテーマは「近くにいる人を信じられるか」というところにあるが、優馬と直人の“信頼の形”が一番切なく感じられる。かなり際どい性描写もあり、センセーショナルな部分が話題にもなったが、直人が優馬の元を去ることになるバックヤードまで余韻を持たせる綾野の立体的なキャラクター作りには、驚きすら覚える。
『武曲 MUKOKU』(2017)
芥川賞作家・藤沢周の原作を、『海炭市叙景』の熊切和嘉監督で映画化。師匠である父との確執により、剣の道を捨て自暴自棄な生活を送る矢田部研吾にふんした綾野。そんな研吾の前にあらわれた、村上虹郎演じる無垢な高校生の羽田融。まったく接点のなかった2人が出会うことで、互いに持つ“死生感”が交差していく。剣道が未経験だった綾野は、本作のために身体を鍛え抜き、驚くべき肉体を披露している。これは“形から入る”というのではなく、肉体を作ることで、剣道の達人という役柄に説得力を持たせることができるという効果がある。こうしたアプローチ方法が、省略の多い作品の端々に効いている。15歳も年齢差がある村上と綾野だが、それを感じさせない2人の“心の繋がり”も綾野の人への距離感の近さの賜物ではないだろうか。
『影裏』(2020)
芥川賞を受賞した沼田真佑の小説を、『るろうに剣心』シリーズなどの大友啓史監督が映画化した人間物語。大友監督といえば、これまでエンターテインメント大作を世に送り出してきた監督だが、本作では映画的な“間”を大切に“分からないから面白い”と大いなる余白のある映画作りに挑戦した。そこで重要になってくるのが演じる役者だ。綾野ふんする今野は、大人しく引っ込み思案で、おおよそ映画の主人公とは思えないような“普通の人”。そんな男が、松田龍平演じる日浅と出会うことで少しずつ内に秘めた感情がにじみ出てくる。自身にあるものをそぎ落としていくことで見せる表現ーー。綾野の俳優としてのポテンシャルの高さをまざまざと見せつけられる作品だ。