『TENET テネット』最速レビュー:脳みそ回転しっぱなしの究極映像体験
待望のクリストファー・ノーラン監督最新作『TENET テネット』のプレス向け試写が、8月26日からの段階的な世界公開に先駆けて行われた。日本では9月18日公開となるため詳細には言及しないが、ファーストリアクションとして一足先にレビューする。
時間が“逆転”する!クリストファー・ノーラン新作映画『TENET テネット』最新予告
「時間の逆行」を駆使して、未来に起きる第3次世界大戦を阻止するという、謎のミッションを課せられた名もなき男が、相棒のニールと共に世界をめぐる『TENET テネット』。ノーラン監督と「時間の逆行」といえば、冒頭から時系列が逆に進んでいく代表作『メメント』(2001)が思い出される。そのほかにも、時間と空間を超越する壮大な宇宙旅行を描いたSF大作『インターステラー』(2014)、3つの違う時間軸を同時進行で描いた戦争映画『ダンケルク』(2017)など、これまでノーラン監督は、時間をテーマに壮大な仕掛けに満ちた物語を生み出し、その構造を解き明かそうと、多くのファンが何度も劇場に通いつめた。
『TENET テネット』は、そうしてノーラン監督が積み重ねてきた、時間に対する研究・考察を、監督の愛するスパイ映画のテイストを詰め込んで総括した、ある意味での集大成のような作品に感じられる。数々の名作にインスピレーションを受けてきたことを隠さないノーラン監督だが、本作に何より影響を与えたのは、ノーラン映画そのものに思えるのだ。
正直に告白すると、たった1度の鑑賞で、物語を理解できたとはとてもいえない。ノーラン監督が用意したパズルは難解だが、「時間の逆行」のルールが意外にもシンプルなだけに、全てを解き明かしたい衝動にかられ、劇場を出た後も思考のループが止まらず深みにはまってしまう。コロナ禍の映画館に観客を呼び戻すことが期待されている本作だが、多くの観客が思考の迷路から脱出するため、何度も劇場に足を運び、SNSやメディアでは数々の考察が飛び交うのは確実だろう。
もちろん、凄腕のエージェントたちが挑む危険なミッションも見どころ。IMAXカメラで捉えた緊迫のアクションは、観客を戦場のど真ん中に連れ込んだ『ダンケルク』のような臨場感をもたらし、「考えるな、感じろ」の精神で身をゆだねるのも心地いい。アクションも洗練されており、クライマックスでは、論理的思考を余儀なくされつつも、興奮を同時に味わえる貴重な体験ができる。
本作でノーラン組に参加した、新鋭スタッフの仕事にも目を見張る。なかでも、長年ノーラン作品を手掛けてきたリー・スミスからバトンを受け取った編集のジェニファー・レイムと、ハンス・ジマーに代わって音楽を手掛けたルートヴィッヒ・ヨーランソン(『ブラックパンサー』等)の仕事には感服するほかない。もし、コロナ禍においても無事アカデミー賞が開催されるのであれば、2人のノミネートは確実だろう。
俳優陣のパフォーマンスも圧巻だ。名もなき男を演じたジョン・デヴィッド・ワシントンはもちろんだが、特に相棒のニールを演じたロバート・パティンソンは、時に主人公を食う程の魅力を放っており、次回作における新たなバットマン役への期待が高まる。
冒険心あふれるかつてない映像体験と洗練されたアクションを堪能しながらも、精巧なパズルのように緻密に組み立てられた物語に一瞬たりとも思考が止まらない『TENET テネット』は、ある意味でノーラン作品の魅力を全て詰め込んだような一本。ノーラン監督のファンならば間違いなく満足できるだろう。(編集部・入倉功一)