蒼井優『スパイの妻』ベネチアで上映「映画は海を渡る」
蒼井優が9日、現在イタリアで開催中の第77回ベネチア国際映画祭コンペティション部門出品作品『スパイの妻』リモート公式会見の直後に行われた日本記者向けの会見に高橋一生、黒沢清監督とともに出席、コロナ禍の中で、本作がベネチア国際映画祭でワールドプレミア上映を果たしたことに「わたしたちが海を渡れなくても、映画は海を渡ることができる」と感激の表情を見せた。
『トウキョウソナタ』『岸辺の旅』などの黒沢清監督によるNHKドラマの劇場版となる本作は、太平洋戦争前夜を背景に、運命に翻弄される夫婦の試練を描き出す。黒沢監督にとって初めてのベネチア国際映画祭のコンペティション部門選出の作品だが、新型コロナウイルスの影響により、キャストと監督は現地入りできなかった。この日は映画祭の会場であるベネチアと中継をつないだリモートでの公式会見が行われた。
会見を終えた蒼井は「自分たちが手塩にかけて作った映画が、とんでもない緊張感の中でお客さんの目に触れる機会となりました。その緊張感も含めて映画祭だと思っているので、そこに行けないんだなというのをあらためて実感しました」と切り出すと、「それと同時に、こんな状態でわたしたちが海を渡れなくても、映画は海を渡ることができるんだなと。その喜びをかみ締めて今日を過ごしたいと思います」とコメント。
さらに「こういうお祭りは平和、安心安全が一番大事」と語る蒼井は、「そういう中でも映画祭の火が消えないようにつながっている。いつもならさんさんとした太陽の中で映画を喜びあう感じですが、今回はいろりを囲んでいるくらいの火かもしれません。それは今年限りであるようにと祈って過ごしたいなと思っております」と続ける。
そして「コンペに出るということで、映画で賞を競うわけですが、とても平和的な競いあいだなと思っています。自分たちがこれいいでしょと思ったものを観ていただいて。それは優劣ではなくて、好みの問題ですからね」と続け、「2年前ですかね。塚本晋也監督の『斬、』という映画でベネチアに連れていっていただきました。その時は『ROMA/ローマ』とかと競ったんですが、素晴らしい映画と同じ場所で観ていただけるところなんだなと思いました」とベネチアの思い出を述懐した。
『贖罪』『岸辺の旅』に続き、今回、黒沢監督と3度目のタッグとなった蒼井は「わたしは黒沢組(の撮影現場)に長く滞在するのが目標だったので、今回はそれを経験できたことが大きかった」と切り出すと、「しかも相手役は一生さんですし、勉強になったところがたくさんあった。もっとこういう風にしたい、こうなりたいというような、お芝居を始めた時と同じように感じた時間でした。そういったものを全部、(今後)映画に出られる限り、この経験をどうにか還元していきたいなと思います」と決意を語るひと幕もあった。
一方の高橋はリモートでの映画祭公式会見を終え、「僕自身は、海外の映画祭の経験があまりないので、お二方(監督と蒼井)と同じように残念だなという気持ちがあります。でも今この瞬間、たとえリモートでも、参加できたことは光栄に思っています」と誇らしげに話す。今回が初参加となった黒沢組について「充実していましたね」と切り出した高橋は、「撮影を初めて1日目か2日目くらいで、だいぶ長いシーンを撮ることになりまして。そこで黒沢監督の映画づくりを初めて感じましたし、俳優部としてすばらしい、映画的な時間を過ごせる場所だなと思いました」と振り返っていた。(取材・文:壬生智裕)
映画『スパイの妻』は10月16日より全国公開