ぴあフィルムフェスティバル最高賞に石田智哉『へんしんっ!』 齊藤工は新人監督たちにエール
25日、若手映画監督の登竜門として知られる「第42回ぴあフィルムフェスティバル」(PFF)のコンペティション部門「PFFアワード2020」表彰式が、国立映画アーカイブで行われ、グランプリに石田智哉監督の『へんしんっ!』が選ばれた。この日は、最終審査員を務めた映画監督の大森立嗣、映画監督の齊藤工(俳優名義は斎藤工)、boidを主宰する樋口泰人プロデューサー、画家の平松麻、映画監督の古厩智之も出席した。
映画祭のメインプログラムである「PFF アワード」。今年、応募総数480本のなかからグランプリを受賞した『へんしんっ!』は、車いすに乗る石田監督が、しょうがい者の表現活動の可能性を探ったドキュメンタリー作品。映画製作を通じて、さまざまな人たちと関わり合うなかで、多様な違いを発見していくさまを描き出す。本作が初監督となった石田監督は、中学生のころ、自身に合った学習方法としてiPadを紹介され、映画制作に興味を持った。立教大学で映像制作系のゼミに所属。ボランティアサークルではバリアフリー映画上映会を行っていたという。
審査員長の大森監督は「とにかく興奮しました。映画を作る楽しみが画面全体から伝わってくるという感じがありました」と切り出すと、「彼のことをどう見つめればいいんだろうというふうに、ずっと、自分と画面と会話をしながら観ていましたけども、彼が楽しんでいる姿が本当に好きでした」とコメント。さらにひとつひとつのシーンに丁寧な感想を述べると、「思い焦がれたものを観たような、そんな感じでした」と称賛。それを聞いた石田監督は「作っていて、本当に楽しくて。表現することに葛藤だったり、不安もあったんですけど、最終的に自分らしい作品にできたのかなと思っています」と喜びの言葉を述べた。
準グランプリを獲得したのは、寺西涼監督の『屋根裏の巳已己』。実家に帰った男が、生と死のはざまをさまよう怪奇な物語に、齊藤は「完全なるひとめぼれでした」と絶賛。「理屈でわからないものがあって。すぐにもう一度観たくなりました。ものすごいエネルギーを感じました」と付け加えた。
賞の発表後には、各審査員それぞれが講評を述べたが、惜しくも選に漏れた作品にも言及するなど、予定時間を大幅にオーバーするほど熱のこもった時間となった。齊藤は「この表彰式で長いスピーチをすると次は呼ばれないジンクスがあって。次は呼ばれないかもしれない」と冗談めかしながら「自分の作品がグランプリじゃなかった、(入選の)17作品に選ばれなかったという人も、大いなるきっかけを持ち帰ってほしいなと思います。悔しかった、もそうですし、恵まれた、評価された、というようなものもあると思うのですが、そういったきっかけがあると、次の座標に向かえると思うんですね」と語る。
さらに「私ごとになるんですが」と付け加えた斎藤は「いろんなことを周りが決めていくんですよね。自分のことなのに。(自分は)気がつけば“セクシー俳優”みたいなところにいて。そんなつもりはなかったんですけど、それを受け入れて。その地点から、自分の中になかった地点をいただいて。そこからまた手を伸ばしたところに、ある座標があったり。皆さんが今日もらったきっかけ、座標というのは、本当に理不尽なくらい周りの大人に決められたもので、そんなつもりじゃないよ、という思いもあると思うんですけど、何か大いなるきっかけを持ち帰ってもらって。これからのフィルムメーカーの皆さんの時間を、楽しみにしております」とクリエイターたちにエールを送っていた。(取材・文:壬生智裕)
受賞作品は下記の通り。
【グランプリ】
『へんしんっ!』石田智哉監督
【準グランプリ】
『屋根裏の巳已己』寺西涼監督
【審査員特別賞】
『頭痛が痛い』守田悠人監督
『MOTHERS』関麻衣子監督
『未亡人』野村陽介監督
【エンタテインメント賞(ホリプロ賞)】
『こちら放送室よりトム少佐へ』千阪拓也監督
【映画ファン賞(ぴあニスト賞)】
『LUGINSKY』haiena監督
【観客賞】
『アスタースクールデイズ』稲田百音監督