映画館、コロナとの戦いはいつまで続くのか…新たな試みと待ち受ける試練
3月から始まった「コロナ自粛」。新型コロナウイルスの影響は文化芸術にも及び、4月の緊急事態宣言発令時は、全国の映画館が休業を余儀なくされ、解除後に営業を再開したものの「コロナ自粛」が続く今、座席を半分以下に減らすなど、経営を度外視してコロナ対策を徹底しても客足が戻らないのが現実だ。そんな中、多くの映画館が新たな試みで映画館の未来を模索している。例年であれば映画館にとってかき入れ時だった夏休み、映画館はいまだに続くコロナ危機をどう戦ったかを振り返った。
オンラインイベントはコロナ禍が生んだ新たな形
夏休みに入ったばかりの7月には『今日から俺は!!劇場版』や『コンフィデンスマンJP プリンセス編』などといった大作が相次いで公開されたが、大手シネコンもコロナ対策のために座席の半分しか使用できない状態が9月に入ってなお続いた。そんな中、少しでも多くの観客を呼び戻そうと多くの劇場が取り入れたのがオンラインでの舞台挨拶だ。映画館にとってゲストが実際に来場して話が聞ける舞台挨拶は、多くの観客が集まるため集客の面でも大切なイベントの一つ。だが、新型コロナウイルスの影響により地方での舞台挨拶の機会は、以前よりも極端に減少してしまった。そんな窮地を救う打開案として多くの劇場が取り入れているのがオンラインイベント。劇場とゲストとをオンラインでつなぎ、トークショーを開催するというやり方だ。
オンラインイベントの方法は劇場や映画によって様々で、映画『MOTHER マザー』は、東京での舞台挨拶を5都市15劇場と繋いでリモート配信。東京以外の地方都市の劇場も、長澤まさみや阿部サダヲといった豪華キャスト陣との中継が繋がったことで観客からは歓声が上がっていた。この方法は地方のミニシアターの救世主にもなっており、映画ファンから長年愛されて来たミニシアターの一つである大阪府のナナゲイこと第七藝術劇場では映画『止められるか、俺たちを』上映では白石和彌監督、脚本の井上淳一、さらに主演の井浦新、門脇麦らがオンラインでのリモート舞台挨拶に登場。映画『はちどり』の公開時にはキム・ボラ監督の国境を超えたオンライン舞台挨拶を実現させて話題を呼んだ。実際にこれだけのゲストを自費で呼ぶとなれば確実に不可能だが、リモートだからこそできる舞台挨拶の方法は、コロナ禍が生んだ新たな形と言えるだろう。また、7月の豪雨で甚大な被害を受けた大分県・日田にある日田リベルテでは映画館独自のトークイベントを有料配信するなど、都内から地方へ、そして地方から都内へとあらたな繋がりも生まれている。
劇場とオンラインの同時上映に監督や映画館が連携
また、作り手と劇場側の新たな試みとして生まれたのは、劇場とオンラインでの同時上映だ。緊急事態宣言中、各地の映画館が休館する中、配給会社「東風」は新作を中心に、映画をネット配信する「仮設の映画館」を立ち上げた。配給会社7社と全国の映画館が連携し運営したこのプロジェクトでは、通常の一般料金1,800円を支払い、各自の端末で鑑賞する。チケット代を鑑賞者が選んだ映画館と配給が利益を分配していくという仕組みだ。続いて7月31日から公開された岩井俊二監督の『8日で死んだ怪獣の12日の物語 -劇場版-』は、劇場公開とオンラインでの同時上映を発表。上映料から消費税と配信サービス手数料を差し引いた金額のうち70%を劇場に均等に分配する。これまで数多くの作品をミニシアターで上映して来た岩井監督はオンライン上映に関し「新型コロナ感染拡大の中、観客の皆さんにどうストレスなく観て頂けるか、劇場にどうダメージなく還元出来るかを模索し、このような選択をさせて頂きました」とコメント。ステイホームで映画を楽しめるオンライン上映と映画館上映、利益を映画館に分配することは共存への新たな方法といえるだろう。
デパート屋上で上映会も
夏祭りが次々にキャンセルされていく今、地域と映画館が生み出した新たな試みもある。大分県別府市にある老舗映画館、別府ブルーバード劇場はコロナのためにキャンセルとなった夏祭りの代わりに屋外上映会を希望した商店街の店主たちに協力。夏休みに合わせた映画をセレクトし、デパートの屋上で三密を避けた空間を作り出してやって来た地元の人々に映画を上映。地元の商店街とともにエンターテインメントの素晴らしさを伝えることで、映画館の存在を印象付けることにも成功した。また市内の養護施設の子供たちに映画を鑑賞してもらうという「子供達に映画をプレゼントする券」も好評で、コロナ禍の危機を地域との絆を深める機会へ変えた。
夏休みが終わり、映画業界はまた新たなスタートを切る。映画館の存続はこれからいかにコロナと共存していくかにかかってくるだろう。オンラインでの舞台挨拶に助けられる一方で、以前のようにその土地に来て、人々に出会い、土地の食事を楽しんでもらいたい気持ちはどの映画館にもある。映画館の座席も完全開放が決まり、Gotoキャンペーンでの東京除外も解除されたが、いまだに感染者が数多く発表されている限り、大手を振ってゲストを招きづらいという地方の映画館も少なくない。コロナとの戦いは一体いつまで続くのか、芸術の灯を絶やさぬように努力し続ける映画館に、以前のような活気が取り戻されることを願うばかりだ。(森田真帆)