空港内施設とオンラインのハイブリッドで開催、新千歳空港国際アニメーション映画祭
世界唯一の空港映画祭として世界からも注目を集めている第7回新千歳空港国際アニメーション映画祭の長編コンペティション部門がこのほど発表され、カナダ出身で福岡在住のアニメーション作家ニック・ディリベルト監督『エンプレス・オブ・ダークネス(原題) / Empress of Darkness』など日本初上映の5作が選ばれた。コロナ禍の影響で今年は空港内施設とオンラインのハイブリッド型での開催となるが、フェスティバルディレクターの土居伸彰は「3年目となる長編部門史上、最もバラエティーに富んだセレクション」と自信を見せている。
今年の長編コンペティション部門への応募は、21の国と地域から49作品。その中から選ばれた5作は、アニメーション制作の裾野の広がりを実感させるラインナップだ。先にあげた『エンプレス・オブ・ダークネス(原題)』は、ディリベルト監督が4年かけて全編一人で手描きした長編アニメーション。マイク・スコット監督『ブル・アンド・ボギー:ザ・ムービー(原題) / Bru&Boegie:The Movie』は、南アフリカ共和国初の2D長編アニメーション。
さらに故アンジェイ・ワイダ監督がカメオ出演しているポーランドのマリウシュ・ヴィルチンスキ監督『キル・イット・アンド・リーブ・ディス・タウン(原題) / Kill It and Leave this Town』、韓国のWEBアニメシリーズの人気エピソードを元にしたCGアニメーション『ビューティー・ウォーター(英題) / Beauty Water』、イルゼ・ブルコフスカ・ヤコブセン監督の実体験をモデルにした、冷戦時代のソ連支配下のラトビアで生まれ育った少女の成長物語『マイ・フェイバリット・ウォー(原題) / My favorite War』も選出された。後者は今年のアヌシー国際アニメーション映画祭コントルシャン部門でグランプリを獲得した話題作だ。
制作に時間も人手も資金も要する長編アニメーションは圧倒的にハリウッドや日本が優位だったが、技術の発達により一人での制作も可能ならば表現方法も多様化している。その潮流がこのラインナップに表れており、土居も「長編というフォーマットがいま、アニメーションのクリエイションの場として極めてエキサイティングなものとして見いだされているということではないでしょうか」とコメントしている。
またすでに発表されている「インターナショナルコンペティション」「インターナショナルコンペティションファミリー」「日本コンペティション」「ミュージックアニメーションコンペティション」「学生コンペティション」の5部門からなる短編コンペティションは、過去最多の100作品を上映する。その中には、児童文学「ごんぎつね」に新たな解釈を加えたストップモーションアニメ『劇場版 ごん - GON, THE LITTLE FOX -』(公開中)や、ミュージシャン・トクマルシューゴのPVで、360度手描きVRアニメーションによる『Shugo Tokumaru (トクマルシューゴ) - Canaria』もある。
残念ながら一部の作品は、権利の問題によりオンラインでの視聴は不可となるが、国際審査員による審査結果の発表、さらには例年通りキッズ賞を設けており、北海道在住の小学4~6年生を対象したこども審査員を10月26日まで募集中だ。またターミナルビル内で会期中に行われていた展示やイベントは、新型コロナウイルス感染拡大予防を鑑みて中止に。代わりにオンラインでのトークイベントなどを充実させる予定だという(詳細は11月上旬に発表予定)。
同映画祭はメイン会場の新千歳空港シアターを中心に、ゲストの宿泊も飲食も、さらには映画疲れを癒す温泉まである新千歳空港ターミナルビルの施設をフル活用して開催する、世界でもユニークなインドア映画祭で、映画上映前には、飛行機搭乗予定の客への乗り遅れを注意するアナウンスが流れることも名物となっている。
今年はどの映画祭も試行錯誤が続いているが、同映画祭は2018年に起こった北海道胆振東部地震の時も打撃を受けた観光業を活性化させようと開催に踏み切った経緯がある。今年も観光促進の一助に、何より国際的な認知度も広がっていた同映画祭を途絶えさせたくない関係者の思いが感じられる。実行委員長の小出正志は「新旧スタイルのいわば ハイブリッドな開催形態は新型コロナウィルス感染症対策の一方で映画祭の新時代 を見据える意欲的な試みでもあります」と前向きに語っている。(取材・文:中山治美)
第7回新千歳空港国際アニメーション映画祭は新千歳空港ターミナルビルで11月20日~23日、オンラインで11月20日~30日にて開催