是枝裕和監督、世界で映画を作ることの面白さを語る
第33回東京国際映画祭
映画『万引き家族』でカンヌ国際映画祭パルムドールをはじめ、世界各国の映画祭で高い評価を受けている是枝裕和監督。10月31日から開催される第33回東京国際映画祭では、国際交流基金アジアセンターとの共催として、アジアのクリエイターたちのトークイベント「アジア交流ラウンジ」を企画し、映画祭に初参戦する。「5年前に東京国際映画祭に対して提言したことがきっかけ」と参加の経緯を明かした是枝監督が、本企画に期待することや、自身の映画づくりについて語った。
これまで映画祭の持つ哲学や、どんな作品をセレクションするかなど、東京国際映画祭に対していろいろな提言をしてきた是枝監督。そのなかの一つが、作り手同士が集える場を作ること。今回実現したのは、アジアの映画人同士の交流の場を提供すること。是枝監督はベネチア国際映画祭で、ヨーロッパの映画祭のトップが壇上に並び、どうやってコロナを克服して映画で繋がっていくかについて語ったことを引き合いに出し、「アジア近隣でもこうしたことをやってしかるべきだと思うし、それをやるなら東京国際映画祭が率先して……という思いがあります」と語った。しかし、現実は難しいと苦笑いを浮かべながらも、本企画がきっかけになってくれればという強い思いを明かした。
また、本企画のように映画を地域で分けて語ることについては、「だいたい間違っているけれど、面白い部分でもある」と意見を述べた。各国の映画祭に参加すると、日本映画というだけで、全体的な共通性を見出そうする人が多いことを感じるという。「最近はだいぶ減ってきたけれど、以前は『広島の原爆投下とあなたの映画の喪失感は、なにか繋がりはありますか?』なんて質問が出る。否定するけれど、そういう状況を面白がるしかない」と笑う。
しかし、その一方で、思い当たる節もあるようだ。是枝監督は映画『真実』ではフランスで映画を撮り、最新作『ブローカー(仮)』では、韓国の名優ソン・ガンホ、カン・ドンウォン、ぺ・ドゥナを迎え、韓国で撮影を行う。海外の撮影チームと作品を共にした時、「自分の持つ時間の流れや人の捉え方の感覚が特殊だと感じている」といい、それが自分が何者なのかを考えるきっかけになっていると感じたという。その感覚が日本人だからなのか、アジア人だからなのか、はたまた是枝裕和というパーソナルなものからきているのかは、自身ではわからないというが、その感覚の違いを撮影現場で共有して作品を作っていくことは、非常に面白い作業のようだ。
『真実』が公開されたとき「フランス人が映っているけれど、日本映画みたいだね」と言う人もいれば、「監督の名前を見なければ、フランス映画だね」と言う人もいたという。次回作『ブローカー(仮)』は韓国の役者を当て書きした作品だが、「それがどう見えるのか。それでも『日本映画っぽい』と言われたら、その日本映画っぽさというものがなにかを探ることになると思います」と観客の反応を楽しみにしている監督だが、「世界中の人に理解されるようには作っていません」と断言し、作り手の切実さがどれだけ伝わるかが、表現の肝であるということを強調した。
今年は世界中で新型コロナウイルスの感染が拡大し、いまだ終息の兆しが見えないため、なかなか世界の映画人が集う場を提供することは難しい。そんななかで開催される映画祭について、「映画祭は新しい映画、新しい映画の作り手、新しい観客を発見する場。その意味で、今回東京国際映画祭の『アジア交流ラウンジ』企画を通して、多くの人との交流が広がれば」と思いを馳せる。パネリストとして、是枝監督と対談する台湾のホアン・シー監督をはじめ、アジア各国からクリエイターたちが集る予定だ。
「この企画をきっかけに、まずは参加者の作品を観てもらうことが一番。あとは、僕自身も黒沢清監督とジャ・ジャンクー監督がどんなトークを繰り広げるのか、まったく想像できないのでそういうハラハラ感を楽しんでもらえれば」と見どころを述べた。(取材・文:磯部正和)
第33回東京国際映画祭は10月31日から11月9日まで六本木ヒルズほかにて開催