核戦争への不安を訴えた70年前のSF映画『地球の静止する日』がB級ではなく名作映画である理由
SF映画はいつの時代もその視覚効果のすばらしさで人々を魅了するが、スペースオペラや地球侵略ものというジャンルの映画では根底に反戦への強いメッセージが込められていることが多い。そのはしりといえるのが1951年に公開された『地球の静止する日』だ。
当時の20世紀フォックスが配給したこの作品は奇妙な宇宙人の姿のインパクトが強いためにB級映画と認識されがちだが、この時代を代表する名作映画の一つだ。それは監督が当初から強烈なメッセージをこの作品に託していたからでもある。
映画が製作されたのは第二次世界大戦が終結した直後で、世界中の人々が自分たちのとりかえしのつかない所業について客観的に見つめ始めている時期でもあった。また原子爆弾が人類史上初めて投下されたことへの、えたいの知れない恐怖が全世界を包み込んでいた。
この作品にはそんな世の中への強烈なメッセージが込められており、うまく機能しない政治へのいらだちと軍への不信感を訴えている。
アメリカ合衆国に着陸した宇宙船から出てきたクラトゥと名乗る宇宙人は、重要な事を伝えたいので、どこか一国のリーダーではなく、すべての国のリーダーと話をしたいと申し出る。そうでなければ話が出来ないと主張し続ける。しかし、それは聞き入れられることはなく軍の出動によりクラトゥは追い詰められていく。
クラトゥを演じたマイケル・レニーは、まさにこの役にぴったりとハマっており、どこか人間ばなれした抑えた感情と知性を感じる容姿が彼を異星人として説得力を持たせている。後に本作が『地球が静止する日』(2005年)でリメイクされた時にクラトゥ役をキアヌ・リーヴスが演じているが、キアヌもどことなくマイケル・レニーに似ている。
映画における視覚効果は現代では完璧に近く、CG技術もなかった時代のSF映画が見劣りがすることは否めない。しかし、当時としては最先端の視覚効果を使い、電子楽器テルミンを用いた音楽の演出など、映画としてのクオリティーは一級品だ。
この映画が公開されてから70年近くたった今日でも核戦争の恐怖はいまだに消えていない。全編を通して訴えかけてくる強烈な反戦メッセージは時代を経ても普遍的なものであることは間違いない。(編集部:下村麻美)
製作年:1951年(92分)モノクロ
製作国:アメリカ
監督:ロバート・ワイズ
出演:マイケル・レニー、パトリシア・ニール
映画『地球の静止する日』は金曜レイトショーにて10月23日23:30~無料配信