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世界初の長編ホラー映画『カリガリ博士』は観客を置き去りにする初の映画

映画『カリガリ博士』(1919)
映画『カリガリ博士』(1919) - Hulton Archive / Getty Images

 ハロウィンを明日に控えホラーテイストの飾り付けが街を彩り、メディアではホラー映画が特集されている。低予算でもクオリティーの高い映画を作ることが可能なホラー映画は新人監督の間でも人気のジャンルだ。初めて作られたホラー映画はアメリカの『メアリー女王の処刑』とも言われているが数十秒の作品のため、この後1919年に製作された69分のドイツ映画『カリガリ博士』がホラー映画の元祖として映画史に名を残している。

 二人の男の雑談から始まるこの物語は、冒頭から不穏な空気が流れる。男が回想する連続殺人事件の話は、二人が雑談をしている平和な世界の映像と違いどこかゆがんでおりセットもジグザクなパーツで組まれ、平衡感覚さえおかしくする。男の主観的な回想を表現したこの映像は、人間の記憶の曖昧さを映像として表現するというラジカルな手法だった。本作の製作国ドイツは当時第一次世界大戦を終え芸術運動が起こっていた。ドイツ表現主義と呼ばれるその運動は、人間の内面を表現することに重きを置いており、絵画や音楽、彫刻などあらゆる分野の芸術に及んだ。この『カリガリ博士』はその芸術運動の中で代表的な作品とも言える。

 『カリガリ博士』の撮影手法は映画としては異例で、舞台劇を撮影するようにカメラはたいてい中央に置かれていた。しかし、パースの狂ったセットのせいで遠近感さえわからなくなる。さらにストーリーラインでさえ観客は途中で見失う。しかし後世に語り継がれる名作映画はラストシーンの完璧さにあるという不文律もこの映画にも適用され、見事な幕の閉じ方をする。

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 映画館でない場所で、訳の分からない映画など観ている時間は惜しいものだが、この映画は歴史に名を残す貴重な芸術作品でもある。ぜひ最後まで観て欲しい。(編集部:下村麻美)

製作年 1920年(69分)モノクロ
製作国 ドイツ
監督 ロベルト・ウイーネ
出演 コンラート・ファイト、ヴェルナー・クラウス

映画『カリガリ博士』は金曜レイトショーにて10月30日23:30~無料配信

https://www.cinematoday.jp/sp/late-show-friday/A0007492

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