主演続く北村匠海、冷静さは大きな武器 プレッシャーに打ち勝つためのキーワード明かす
累計55万部を突破する西加奈子の同名小説を映画化する『さくら』(11月13日公開)で主演を務める北村匠海(23)。今年公開の映画は5本。今年のTAMA映画賞で最優秀新進男優賞を受賞するなど、名実共に大きな飛躍を遂げた彼が、第一線を走り続けるプレッシャーを乗り越えるすべについて語った。
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映画『さくら』は、長男の死という悲劇に直面した一家の絶望と再生を描く物語。北村が演じるのは、次男の薫。物語は、彼の目線を通して語られる。北村いわく、薫は「自分が無個性というコンプレックスが強い人物」。幼いころからヒーローのような兄・一(ハジメ/吉沢亮)と、自由奔放な妹・美貴(小松菜奈)に挟まれ、自我を出しづらいポジションにある。北村自身は、俳優としてのみならずダンスロックバンド・DISH//のボーカル、リーダーとしても活躍する今をときめくスターで、ハジメタイプのように見えるがそれには意外な答え。
「僕は弟がいて長男ですけど、どちらかというと薫に似てネガティブで、弟はもっと明るいんです。だから僕はハジメのことがすごくまぶしかったけど、ハジメは実は見かけより脆いんですよね。ずっと前を向いて後ろを振り返らなかった人だからこそ、なのかもしれません。薫はハジメが事故に遭って心を閉ざしたときに正視できず、うまく接することができずにいましたが、僕はハジメのもろい一面を見てホッとしたところがあります。薫からすれば、兄に対してずっと輝いていてほしいというある種の偶像崇拝のような願望があったと思いますけど、僕としては人間臭くて好きだったんですよね」
本作で北村を驚かせ、同時に成長させたのが矢崎仁司監督の演出。例えば、劇中で事故後、足に障害を負ったハジメが退院した際に家族の助けを拒んで自力で玄関までたどり着こうとするシーンでは、その表情を一切映さないことで見る者の想像を掻き立てる。「映画を観て『あ、こんな画になっているんだ』と驚く場面が多々ありました。セオリーでいえば俳優の表情を見たいものですけど、観客に想像を委ねる余白を残したいというのが矢崎監督の考えなのかと思いました。考えさせる芝居作りと演出とカット、というのが絶妙なバランスで。現場ではすんなり進んだシーンもあれば、逆もありました。大事なシーンこそ、テイクを重ねずに一発勝負だったり、かと思えば家族の何気ない会話のシーンに時間をかけたり。それが面白くもあり、正直戸惑いもありましたけど、完成した映画を観て、なるほどそういうことかと感じました」
そんな、初の矢崎監督の現場に戸惑いながらも、北村にとって助けになったのが3兄妹を演じる小松菜奈、吉沢亮の存在。山梨のロケでは本当の兄妹のように過ごしていたという。小松とは映画『ディストラクション・ベイビーズ』で、吉沢とは「半沢直樹」のスピンオフドラマで共演している。
「亮くんは役者としてシンパシーを感じるんです。同じ空気感なんですよね。お互いに生きる活力みたいなものが表に出ないタイプというか。ロケ中はよく3人でご飯を食べていましたし、毎日亮君が僕の部屋に来て作品の話だったり、お互いくだらない話をしたり。映画で、よくハジメが薫に『おまえまだ童貞なのか』みたいな他愛もない話をしていましたけど、あんな雰囲気のまんまで。中心には菜奈ちゃんがいて、劇中さながら天真爛漫な彼女が3人のトーンを上げてくれるという感じで、本当にバランスが良かった。芝居以外のバックボーンで、ちゃんと関係を作れていたのでそれは映画にも表れているのではないかと思います」
今年は『サヨナラまでの30分』『思い、思われ、ふり、ふられ』『とんかつDJアゲ太郎』が公開され、11月27日にはボクサー役に挑んだ劇場版『アンダードッグ』(前後編同日公開)が控えている。来年には人気漫画を実写映画化する主演映画『東京リベンジャーズ』が待機中だ。2008年の映画『ダイブ!!』で俳優デビューし、2017年の『君の膵臓をたべたい』で映画初主演。主演作が続き多忙な日々を送る北村だが、どのようにプレッシャーと戦っているのか。
「これはある先輩の方からいただいた座右の銘なんですけど、仏教用語で『いい加減』。目の前にある作品を愛するということを続けた結果が、賞をいただいたり主演作が続いたことにつながったのかもしれません。主演、作品が続いているといったことを考えるとどうしても苦しくなったり、芝居はアウトプットしかないので精神がちょっと削れていくんです。二十歳になり立ての時などはいっぱいいっぱいでしたけど、今となっては『いい加減』という言葉を胸に、自分の中で気持ちのいいところでぷかぷか浮いている浮遊感を大切にして作品を向き合うようにしています。それが自分を支えているようにも思います」
そんな北村の大きな武器が「冷静さ」。声優として参加したアニメ映画『ぼくらの7日間戦争』の初日舞台挨拶では、共演の宮沢りえが「わたしの方があまり声のお仕事の経験がないので緊張していたら、彼がすごく丁寧に声を入れるタイミングなどを教えてくれたんです。まったく緊張しているようには見えなかった」と話したのに対して、北村は「僕は余裕があるように見せるのがうまいだけで、本当はすごく緊張するタイプなんです」と発言していた。北村いわく、それは意識的に心がけていることなのだという。
「緊張しているということを表に出すと『さくら』のハジメじゃないですけど、途端に目の前に大きな壁が現れる感覚があって。それに打ち勝たなければならないというプレッシャーが出てくるんですけど、僕は感情のコントロールというと聞こえはカッコいいですけど、緊張を出さないことでフラットにいるように自己暗示をかけているというか。『自分はフラット』だと思い込むことで地に足がつく。そうなるまでに失敗したこともたくさんありますし、それはある意味“芝居“ですね(笑)。それが仕事をするうえで、生きていくうえでのすべになっているかもしれないです」(取材・文:編集部 石井百合子)