「エール」志村けんさん、最後の笑顔は“奇跡”のように生まれた チーフ演出が明かす秘話
まもなく最終回を迎える連続テレビ小説「エール」(月~土、NHK総合・午前8時~ほか)の第119回に志村けんさん演じる作曲家・小山田耕三が再登場。その出演シーンに隠された秘話をチーフ演出の吉田照幸が明かした。
最終週に突入し、人気キャラクター総出演で古関裕而の名曲の数々を披露する最終回を残すのみとなった「エール」。26日放送の第119回では、東京オリンピックが終わった後、裕一(窪田正孝)のもとに小山田からの手紙が届けられる場面が描かれた。この手紙について、吉田は「たぶん戦争の(場面の)脚本を書いた後くらいに思いついたことだと思います。あの文面は僕の思いです。僕がもし天国に行ったら、志村さんとお笑いについてお話したいなという思いが如実に表れていました」と語る。
吉田は志村さんが出演したNHKのコント番組「となりのシムラ」などでもタッグを組んでいたこともあり、「実際に撮影をしている時は、涙でプレビューが観られなかったですね。だから何を撮っているのか、分からないまま撮影は終わりました。あのシーンは厳粛な空気で、天国から志村さんが見ていらっしゃることを意識されていた気がします」と振り返る。「窪田さんも感傷的になりすぎず、冷静に読み上げてくれた。何かの決意を表現してくれているように感じました。だから悲しいシーンだけど力強さもある。窪田さんがスタッフ一同の思いを表現してくれたのだと思いました」
ここでは志村さんの映像が織り込まれており、鏡越しに笑顔も捉えられている。このシーンについて、吉田は「偶然に撮れたオフショットで、誰かがNGを出した時に、思わず笑ってしまった時の顔なんです」と明かす。「鏡越しに映っているショットだから使えました。直接撮った映像だったら使えなかったと思います。編集マンが見つけてくれたのですが、普段の志村さんはあの笑顔なんです。本当に子どもみたいな笑顔で、それが残っていて表現できた。うれしかったですね」と感慨深げ。
さらに吉田は「あの手紙の場面では小山田が裕一と会うという構想があったんです」と打ち明ける。そこには物語のテーマとしてあった、プライドや嫉妬が力にもなれば人間を蝕むものにもなるというメッセージも関係しているという。「志村さんはそういうことに縁のない方に見えますが、実際は他の人がウケたら悔しがるし、もっとこんな笑いができるぞと勝負しようと努力されてきた方なんです。そんなことを最後のシーンで表現したかった。普段の志村さんの柔らかい笑顔で終わろうと、写真を一瞬だけ使おうかと思っていたところに、今回の映像が見つかって。奇跡って本当に起こるんだなと思いました」としみじみと語った。(取材・文:壬生智裕)