大林宣彦監督『海辺の映画館』に最優秀作品賞 受け継がれる平和への思い-TAMA映画賞
第12回TAMA映画賞・授賞式が29日、府中の森芸術劇場どりーむホールで行われ、大林宣彦監督の映画『海辺の映画館-キネマの玉手箱』が最優秀作品賞を受賞。女優の常盤貴子をはじめ、厚木拓郎、細山田隆人、細田善彦、吉田玲、大林恭子プロデューサー、奥山和由プロデューサーが登壇し、大林監督の思い出話に花を咲かせた。
本作は、広島県尾道の海辺にある映画館・瀬戸内キネマが閉館する日に開催されたオールナイト興行「日本の戦争映画大特集」にやってきた3人の若者が、スクリーンの世界へと飛び込んでしまい、映画史と共に戦争の悲劇を目の当たりにする姿が描かれる。
本作の公開は、2020年4月10日を予定していたが、新型コロナウイルス感染拡大の影響で延期。メガホンを取った大林監督は、当初の公開予定日だったその日に、82歳の生涯を閉じた。恭子プロデューサーは「亡くなる寸前まで映画の夢を見ていて、わたしに会うと『今日は何時にスタジオなの?』と話していました」と振り返ると「黒澤明監督が生前、大林をすごくかわいがってくれていて『大林くん、世界が平和になるのは400年かかる。そこまで生きていられないから、大林くんが僕の続きをやってね』と話していました。映画の力を信じて、未来の子供たちに平和で穏やかな世界がくることを望んでいました」と明かす。
黒澤監督からのバトンを受けた大林監督が、その思いを未来に託したのが、岩井俊二監督、塚本晋也監督、犬童一心監督、手塚眞監督。この日、『海辺の映画館』と共に『ラストレター』で最優秀作品賞を受賞し、授賞式に参加していた岩井監督は「黒澤監督から受け継がれているもの……一つは映画であり、もう一つは平和だと思う。非常に簡単なようで難しい命題」とポツリ。
続けて岩井監督は「とても身の引き締まる思いですが、すぐに『こうしたらいいんですよね』という答えがあるわけではない。大林監督のメッセージを自分のなかで考え、考察しながら大林監督が何を伝えたかったのか、かみしめて生かしていきたい」と前を向いた。
また近年、『野のなななのか』、『花筐/HANAGATAMI』など、大林作品への出演が続いていた常盤は、大林監督が段取りを無視するのが得意であったと述懐。「今日はわたしも無視させていただきますね」と語り「一昨年の夏、大林監督の分身となって、頑張って撮影を続けてくれた4人(厚木、細山田、細田、吉田)のおかげで、この映画が自由に飛び立てました。そんな4人に大きな拍手をしてください」と台本にない進行。“段取り無視”の大林イズムを実践し、故人を偲んだ。
恭子プロデューサーは、大林監督が亡くなる1か月前には、死を覚悟していたという。「毎晩『観客の皆さんにありがとうと言いたい』と話していました。それを今日お伝えできて良かったです」と安堵(あんど)の表情を浮かべていた。
TAMA映画賞は、多摩市及び近郊の市民からなる実行委員が、明日への元気を与えてくれる・夢をみせてくれる活力溢れる<いきのいい>作品・監督・俳優を、映画ファンの立場から感謝をこめて表彰するイベント。(磯部正和)