磯村勇斗、快進撃に「今は喜びたくない」 監督作ではかつてない達成感も
俳優として大躍進中の磯村勇斗が、WOWOWの開局30周年記念プロジェクト「アクターズ・ショート・フィルム」で監督業にチャレンジ。親友の泉澤祐希を主演に迎え、ショートフィルム「機械仕掛けの君」を完成させた。“ものづくり”が大好きで、本作ではコロナ禍で芽生えた思いをテーマに「オンリーワンの作品を目指した」という磯村。監督業を通して得た発見や、俳優として快進撃を続けながらも「満足していない」という現在の心境までを明かした。
自粛期間に芽生えた思いをテーマに脚本作り
中学生時代に、自ら監督、脚本、主演まで務めて自主映画を制作したことがあるという磯村。「小さな頃から“ものづくり”が大好き。中学生の頃に自主映画を作ってみて、すごく楽しかったという思い出も自分の中に残っています」と、もともとスタッフ側の作業にも興味があったそう。今回、監督としてのオファーが舞い込み「驚きましたし、最初はとても悩みました。いつか監督をやってみたいという気持ちはありましたが、俳優業と並行して監督業ができるのだろうかと自問しました」と吐露しつつも、「やはり、最終的には自分の素直な気持ちに従おうと思いました」と思い切って飛び込んだ。
「機械仕掛けの君」は、アンドロイドが進化した近未来社会で、反体制運動に身を投じるAI技術者を描く物語。脚本を担った伊藤靖朗と共に、ストーリーラインを作り上げた。「子どもが好きなので、子どもをメインにしたいという思いから始まって。全く違う生活環境で育った二人が出会う話を作りたいと思った」そうだが、さらに「オンリーワンの作品にするためには、どうしたらいいか」と熟考したと話す。
「近未来を舞台にしながらも、リアリティを持った作品にするのはどうかという考えにたどり着いて。また構想を練っているときは、コロナ禍での自粛期間の時期でしたので、国民にとって政治はどうあるべきかなど、僕なりにニュースを見ていろいろと感じることもありました。そういったことをテーマに、日本社会の縮図のようなものを描きたいと思いながら、作業を進めていきました」と自分なりの思いを込めた。
泉澤祐希との朝ドラ「ひよっこ」以来の絆
利益のみを追求し続ける社会に不安を覚える主人公・照康役には、泉澤祐希を指名した。磯村が「照康には、僕の思いが込められている」という役だが、脚本が出来上がった段階で「この役をやれるのは、祐希しかいないと感じた」と語る。「祐希とは『ひよっこ』(2017年放送のNHK連続テレビ小説)で初めて出会ったんですが、その頃から彼の芯のあるお芝居に惹かれていました。照康は苦しみながらも、強く前を向いて生きていくというキャラクターで、祐希の純粋でまっすぐな一面も照康にピタリとハマる。細かい感情表現も必要になる役ですが、祐希ならばやってくれるだろうという強い信頼感がありました」
泉澤とは公私共に交流があるという。「『ひよっこ』の撮影中には、有村架純さん、佐久間由衣さん、祐希と一緒に同世代ということでよく話をしていたんです。撮影が終わってからも定期的に会ったりしていて、すごく仲がいいんですよ」と告白。「特に祐希とは、よくご飯に行っています。祐希は、いつでも場の空気を和ませてくれるような人。ピリッとしたムードが大嫌いなんです。僕もそういうタイプで波長が合うし、一緒に過ごしていてとても楽しい」と思わず笑顔がこぼれる。
監督業へのチャレンジにおいても、泉澤の存在は大きなものだった。「祐希とは、撮影に入る前から毎日のように連絡を取り合っていました。僕も俳優なので、もしかしたらここは俳優がやりづらいかもしれないという環境もよくわかる。祐希とたくさん話して、俳優の不安要素はなくしていきたいと思っていました。クライマックスは、祐希の真骨頂とも思えるシーンになっています!」とうれしそうに語る。
「喜びたくない」俳優業へのストイックな姿勢
監督業に携わる上では、撮影前から「この作品をよりよいものにするためには、どうしたらいいんだろうかとずっと考えていました。不安なこともたくさんあった」と打ち明けつつも、「振り返って思うのは、本当に楽しかったということ」と充実の表情を見せる。
クランクアップ時には「ギリギリまでいろいろと悩んでいたので、今までとは違った、かつてない達成感を味わいました。観ていただいて、その反応がまた楽しみです」と新鮮な感動を覚えたという。映画を完成させて、もっとも実感したのが「映画は一人ではできない」ということだ。「カメラマンさん、照明さん、音響さん、編集さんたちが、僕がやりたいと思ったことを、最大限に理解してくださいました。アドバイスをいただいたり、ディスカッションをすることもできて、改めてスタッフさんの偉大さが身に染みました。映画は一人では決して作ることができないし、仲間がいてこそ、いいものができる。チームワークの大切さを感じました」
「子役の子たちは、動ける時間が限られているので、時間との戦い! 限られた時間でどれだけのお芝居を引き出せるか。監督業の難しさと醍醐味を味わいました」と語るが、「子どもたちのお芝居はとてもピュア。自由に動き回っている姿、楽しそうに演じている姿を見て、僕自身、すごくうれしかった」と俳優業への刺激ももらったそう。
2020年は『今日から俺は!!劇場版』の最凶ヤンキー・相良役、ドラマ「恋する母たち」では家庭を持つ女性上司を一途に思う部下・赤坂役を好演。演技の振り幅の広さも話題となっているが、「テレビや映画に出たいという夢はかなったと思いますが、現状には納得していない」と貪欲な姿勢を明かす。
「相良もあれば、赤坂もあり、いろいろなタイプの役に挑戦していますが、どんな役でもやれてこそ、俳優。もともと飽き性という性格もあって、いろいろな役を演じられることはとても楽しいです。今年はたくさん『あの役がよかった』など評価をいただくこともありました。それはもちろんうれしいことですが、そこで喜びたくないという思いもあって。もっと若い頃は『俺、やったぜ!』と喜ぶこともありましたが、今は喜ぶことはしたくない」と、とことんストイック。「中学生のときに“俳優になる”と決めてから、その思いはずっとブレていません。生涯役者として、あらゆる変化を遂げながら続けていきたい」と意欲をみなぎらせていた。(取材・文:成田おり枝)
「アクターズ・ショート・フィルム」は1月13日午後0:00よりWOWOWオンデマンドで配信、1月23日夜7:00よりWOWOWプライムで放送