「銀魂」空知英秋は「完全に銀さん」担当編集者が語る素顔
アニメ「銀魂」のラストを飾る映画『銀魂 THE FINAL』の公開に際し、原作者・空知英秋の初代担当編集者・大西恒平(現「週刊少年ジャンプ」メディア担当編集長)をはじめとする歴代担当7人が取材に応じ、「完全に銀さん」という人気漫画家の素顔を語った。
「銀魂」は2003年に「週刊少年ジャンプ」で連載が開始し、2019年に最終回を迎えた。そしてテレビアニメは2006年にスタート。全4期が放送され、『劇場版 銀魂 新訳紅桜篇』(2010)、『劇場版 銀魂 完結篇 万事屋よ永遠なれ』(2013)に続く映画3作目として、原作漫画のラストをベースにした物語を描き、15年におよぶアニメ「銀魂」を締めくくるのが公開中の『銀魂 THE FINAL』。連載を終えた空知が全面協力していることも話題だ。
空知は漫画のあとがき等で自らも明かしている通り、原稿の執筆に時間をかけて締め切り前にピンチを迎えることもしばしば。それに関わる編集部の人々が漫画本編やコミックスのあとがきを通じてユーモア満載に紹介されており、歴代担当の名前を見てピンとくるファンも多いことだろう。その担当編集者の視点から見る空知の人物像は、作品から受けるイメージそのままだという。「コミックスのあとがきのような口調でいつも僕たちとも話しています」と大西は語る。
漫画家としての空知については、技術はもちろんと前置きしつつ、全員が空知の人柄や人間味を称える。
4代目&6代目担当を担った本田佑行は「毎週、締め切りの曜日からその翌日は、本当に世界で一番嫌いになるんです。でも、ボロボロになって原稿を終えてから『すみませんでした。来週は大丈夫です! 頑張ります!』と言われるとまた好きになっちゃうんです。毎週、締め切り前後の2日間は大嫌いになって、次の打ち合わせでもう一度空知先生を好きになる。来週は信じてみようかなと思うと、また嫌いになるんですけど」と笑い、「完全に銀さんなんですよね」と「銀魂」の主人公・坂田銀時と重ねる。
5代目担当・松尾修によれば「人たらしがすごい」。それにうなずく8代目担当・真鍋廉は、空知の原稿を受け取るまでの待機時間が長いことを、かつて多くの連載を抱えていた手塚治虫を担当した“手塚番”を例に出す。「我々は現代の手塚番だと思っています。手塚番の方が、締め切りを遥かに過ぎた状況で追い込まれて、手塚プロダクションの壁を破壊したというエピソードがあるのですが、僕、ちょっとそれがわかるんです。でも本田さんが言ったように『次は信じてみようかな』というのを毎週繰り返していました」
すると「信じていたんですか?」「信じてたよ」「僕は信じたことは1回も無いです」と口々に明かす面々。「僕は信じていた派」という7代目&10代目担当・内藤拓真が「悪びれずに『来週はもうやること決まってるんで』『あとは描けばいいだけなんで』とか言うんですもん」と打ち明けると、2代目担当・齊藤優は「本人は本気で言っていて、本当に頑張っていただいているんです。そこには全く疑いはなくて、ただ読みが甘すぎるんです……(笑)」と続ける。
「次は締め切りを守る」という空知の言葉を「信じる」「信じない」で話が盛り上がるのも、愛すべき人柄ゆえだろう。一方で「すごく理論派」でもあるのだとか。
9代目担当・井坂尊は「流行っている漫画とかもちゃんと読んで分析しているんです。この作品はここが良いんじゃないかという話を打ち合わせでよくするのですが、それがきちんと考えられていて核心を突いている」というエピソードを紹介する。
「そうそう。新連載が始まった時に『これどうですか?』と聞くと、返ってくるすごくシンプルな言葉がめちゃくちゃ的を射ている。ぱっと見て本質を見抜く。あればすごいセンスだなと思います」(齊藤)
「客観視する力はすごくありますね。観察眼がある。世の中をずっと観察していて、それをキャラづくりやストーリー展開に生かす。それに時間がかかってネームが遅くなるのかな。プラスに解釈すると(笑)」(大西)
今回の映画でアニメ「銀魂」が完結を迎えたことについて、大西は「こうして映画を作ってもらえたこと自体、作家も含め作品がアニメ制作陣とファンに愛されていたんだと感じます」と語る。アニメ制作陣は初期のころから「最後まで付き合います」と意志を示してくれていたといい、想定よりも連載が大きく延びたりしながらも、ラストまでのアニメ化が実現した。
「そこまで付き合ってもらえるというのは、作家の人徳なのかもしれません。『しょうがないから付き合ってやる』と思わせられるものが作家にあったのではないでしょうか」と空知の漫画家デビューから寄り添った大西はつぶやいていた。(編集部・小山美咲)