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西川美和『すばらしき世界』で観客にかける魔法

新作映画『すばらしき世界』の西川美和監督
新作映画『すばらしき世界』の西川美和監督

 『ディア・ドクター』『永い言い訳』などの西川美和監督の待望の新作映画『すばらしき世界』。西川監督が取材に応じ、作品について語った。

【動画】役所広司&仲野太賀&長澤まさみの熱演!『すばらしき世界』予告編

 『すばらしき世界』は「復讐するは我にあり」などで知られる作家・佐木隆三が1990年に講談社より刊行したノンフィクション・ノベル「身分帳」が原案の作品。13年の刑期を終えた元殺人犯・三上(役所広司)の出所後の日々を描いている。西川監督にとって初めて原案小説のある企画で、綿密なリサーチをして3年の歳月をかけて脚本を完成させた。原案から舞台を約35年後の現代に設定している。

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■念願だった役所広司とのタッグ

すばらしき世界
(C) 佐木隆三/2021「すばらしき世界」製作委員会

 撮影現場での俳優の動きのすべてを決めるような脚本ではなく、「役者が自分で脚本を咀嚼(そしゃく)してその人にしかない表情で表現してくれる」脚本を書いてきた。そのことで「脚本をさらに凌駕する表現になってきます」と西川監督。「あまり書き込まないことで俳優が自由になるんです。その余白や余地みたいなものを役所さんがちゃんと解釈してくださって、脚本以上のものを現場で出してくれました」

 実在の人物がモデルとなった、かつて殺人を犯した男・三上。役所広司が見せる演技、三上としての表情、背中、呼吸、生き様……。脚本を書いた時の意図や設計をすべて理解した役所が撮影現場にいたと振り返る西川監督の表情は、大切な三上の役を役所に託すことができたことへの満足感にあふれていた。

 役所に映画に出てもらうことは「ずるいんですよ」と笑う西川監督。「それを出されたらもうっていうジョーカーのような『切り札』だと思うんです。切り札を出すのって、ここぞっていう勝負の時、絶対に勝ちたい時じゃないですか。それがやっぱり今回の作品なんです」

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■もし三上に会ったら…

すばらしき世界
(C) 佐木隆三/2021「すばらしき世界」製作委員会

 人生の大半を刑務所の中で過ごしてきた三上は「今度ばっかりは、堅気(かたぎ)ぞ……」と心に決め、まっとうに生きようともがき苦しむ。三上には、彼に目をつけたテレビマンの津乃田(仲野太賀)やプロデューサーの吉澤(長澤まさみ)、身元引受人の弁護士・庄司(橋爪功)、近所のスーパーの店長・松本(六角精児)など様々な人たちとの出会いが訪れ、物語は進行していく。

 では西川監督が、得体の知れない生きづらさを抱えている男・三上と出会ったらどうするのだろうか。「その時になってみないとわからないですが、難しいですね……」と少し考えてから次のように答えた。

 「でもなんか、私だけじゃない方がいいですよね。私だけじゃなくて、スーパーの店長もいて弁護士の先生、ケースワーカーもいて。一対一だとケンカになることも絶対あるじゃないですか。そしたらもう誰一人頼る相手がいないって思うと一線を越えちゃうらしいんです」

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 「だから関係は一本じゃなくて複数で緩やかに。どこかがちょっとこじれても別の誰かと繋がっていることが大事なんだと取材の過程で多くの人が言っていました。自分だけがあなたの大親友で私だけはわかってあげている、ではなく、さりげなく付き合える関係だったら自分でもできるかなと思います」

 はたして映画『すばらしき世界』で三上と出会う人たちは、エンドロールが流れる映画館で何を思うのか。西川監督は、この映画を観終わった時に訪れる「変化」を観客に体験してほしいと語っていた。西川監督の魔法にかけられて、誰もが虜になってしまうことだろう。(編集部・海江田宗)

映画『すばらしき世界』は公開中

役所広司・仲野太賀・長澤まさみが共演『すばらしき世界』予告編 » 動画の詳細
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