ミャンマーと日本合作映画『僕の帰る場所』オンライン上映を決断
2017年に製作された日本・ミャンマー合作映画『僕の帰る場所』が3月13日から2週間期間限定でオンライン配信されることが決まった。ミャンマーは現在、クーデターを行った国軍が抗議デモを行う市民に対して銃撃し、死傷者が出るという最悪な事態となっているが、藤元明緒監督は「映画を通してミャンマーに興味を持つ方が一人でも増えれば」と、新作『海辺の彼女たち』(5月1日全国順次公開)を引っ提げて参加している第16回大阪アジアン映画祭で、今回の決断に至った思いを語った。
同作は東京で暮らす在日ミャンマー人一家が主人公。父親は母国の政情が不安定だったことから来日し、家庭を持ってささやかな幸せをつかんだものの、ある日、入国管理局に逮捕されてしまう。今後の生活に不安を覚えた家族は帰国の道を選択するも、日本育ちの子どもたちは母国の暮らしになかなか慣れないという移民が抱える問題をリアルに描いた作品だ。第30回東京国際映画祭でアジアの未来部門作品賞と国際交流基金アジアセンター特別賞をダブル受賞するなど国内外で高い評価を受けた。
オンライン配信はもともと、新作『海辺の彼女たち』の公開に合わせて計画をしていたという。そこに軍が政権を掌握したというニュースが飛び込んできた。藤元監督は「正直、このタイミングで映画を出すのはどうかと迷いましたが、時代によって鑑賞の意味合いが変化するのも映画の宿命」ととらえたという。渡邉一孝(E.x.N代表)プロデューサーも「父親の家や国に帰りたくても帰れないという気持ちが、今観るとより一層伝わってくるかもしれない」と語る。
本作は2014年のテイン・セイン政権時代に現地でも撮影を行い、現地スタッフも多数参加している。藤元監督は「撮影現場に検閲官こそいたものの、撮影は難なく行われました。このまま国がいい方向に向かうのだと楽観していた。それがわずか数年でひっくり返るとは」と政情の不安定な国であったことを今更ながら身に染みて実感しているという。
さらに撮影後、藤元監督は在日ミャンマー人と結婚し、現地には夫人の家族や親戚も住んでいる。クーデターが起こった当初は現地の通信が遮断され、家族の安否が確認できず「奥さんと二人であわあわしてしまった」(藤元監督)という。今は限られた時間だけ連絡が取れる状態ではあるが、日々流れてくる市民が銃で狙われ、暴力を振るわれている映像に胸を痛め、不安な日々を過ごしているという。
藤元監督は「コロナ禍の影響もあって自宅で待機している人たちの家の中にも銃弾は容赦なく飛び込んでくると聞いています。デモに参加していないから安全というわけではない」と説明する。さらに空港が閉鎖されており、5月に予定していた2歳の子どもとミャンマーの家族の初顔合わせを目的とした里帰りも難しくなってきた。「今はとにかく事態が収まることを願うばかりです」とミャンマーの人たちに思いをはせた。(取材・文:中山治美)
映画『僕の帰る場所』は3月13日~28日限定オンライン配信
第16回大阪アジアン映画祭は14日まで開催