「青天を衝け」斬新なオープニングが生まれるまで 制作スタッフが裏側明かす
日本資本主義の父と呼ばれた実業家・渋沢栄一の生涯を描いた大河ドラマ「青天を衝け」(NHK総合ほかにて放送)。本作のオープニング映像は、鳥の視点から始まり、ミュージカル調に展開していくなど、これまでの作品とは一風変わった趣を見せている。これにはどんな思いが込められているのか……? オープニングのタイトルバックを手掛けた映像クリエイターの柿本ケンサクと、ドラマ演出の松木健祐が制作意図を語った。
本作のポスタービジュアルでは、栄一を演じる吉沢亮が、泥だらけの顔で強い視線を投げかけている。本ビジュアルも手掛けたという柿本は「タイトルバックとポスタービジュアルは対になっているんです」と述べると「渋沢栄一という人を一言で表すと、速度制限を無視するようなスピード感をもつ人。ポスターでは、その一瞬を切り取り、タイトルバックでは、連続している疾走感を表現したかった」と説明する。
オープニングは、水墨画のような質感をもつ映像が特徴的だ。柿本は「このタッチはかなり意識して制作した」と言い、ボリュメトリックビデオ撮影という技法を使っていることが大きく影響していると話す。「ボリュメトリックビデオ撮影というのは、被写体を150台のカメラで360度撮影する方法なのですが、人物が重なってしまうと、データが取れないんです。本来この撮影をする場合は、最低でも人物と人物の間を1メートル50センチ以上離さないと撮影できない」
しかし、柿本はこの弱点を逆手にとった。本来であればデータが破損してしまう人と人が密集している部分を、あえて水墨画のようなタッチを用いてぼやかすことで、空間に余白を作ることに成功。その結果、自由度の高いカメラワークが可能になり、これまで観たことがないようなアングルからダイナミックに栄一を捉える映像を作ることができたという。
もう一つ特徴的なのは、ミュージカル調の表現だ。柿本いわく、これは「いい意味で視聴者の方々を裏切りたかった」との思いから生まれた。「渋沢というのは、これと決めた道を進むのではなく、常に臨機応変に対応し、高い壁を目の前にすると笑うような人間。人々の予想を裏切るような、踊るように楽しんで生きた人だと感じたのです。踊るという着想と、大河ドラマでミュージカルという意外性、そんなところからこのアイデアを採用しました」と意図を説明する。
さらに柿本は「青天を衝け」という作品の魅力をこう語る。「幕末から明治に移り変わる時期。そこには、これまでの文化や生活様式を捨てる必要があった。多くの人はそのことに苦悩していましたが、渋沢は型にはまらず、常に変化し挑戦し続けてきた。そんな彼の熱量を視聴者の皆さまにも感じてもらえるのでは」
一方の松木は栄一という人物について「知れば知るほど矛盾のある男だなと感じました」と言い、「農民だけれど武士、攘夷だと言っていたのに、パリに留学してフランス語を勉強する。その矛盾を自分の中で消化して、最も理想的な形でアウトプットしていく。そんな面白さが作品には詰まっていると思います」と本作の魅力に触れていた。(取材・文:磯部正和)