劇場版『科捜研の女』長年番組を支持してくれた人たちへの「ファン孝行」の思い
沢口靖子主演の人気ドラマシリーズ初の映画化となる『科捜研の女 -劇場版-』(9月3日公開)。昨年秋に東映京都撮影所の撮影現場を訪れると、劇場版だからといって奇をてらわず、だがしかし、約20年に渡ってチームを組んできた俳優&スタッフの集大成に賭ける熱い思いと確かな自信がスタジオ中に充満していた。
「科捜研の女」は、京都府警科学捜査研究所(通称:科捜研)の法医研究員・榊マリコ(沢口)が、同僚たちと共に科学の力で難事件を解明していくミステリードラマ。1999年にスタートし、2020年秋のSeason20の放送を経て、この劇場版のクランクインを迎えるに至った。
今回マリコたちが挑むのは、京都をはじめ、世界各地で起こったバイオ研究者の連続不審死事件。だが鍵を握る天才科学者・加賀野亘(佐々木蔵之介)が、マリコたちの前に立ちはだかる。中尾亜由子プロデューサーいわく“シリーズ史上最難関の事件であり、史上最強の敵”だという。
脚本は、「科捜研の女」シリーズのみならず、「相棒」シリーズや「名探偵コナン」シリーズ、「ATARU」など数々の人気ミステリー劇を手がけてきた櫻井武晴。絶対的エースの登板だ。沢口は「台本を頂いた時に、脚本家の櫻井さんの20年間の科捜研に対する思いを感じました」と語り、ドラマ版の良い緊張感を維持しつつ、さらにギアを上げて劇場版に撮入できたようだ。
この日の撮影は、研究所のシーン。京都が誇る精密機器メーカー・島津製作所の協力を得た各種分析機器がそろえられ、セットとは思えぬ臨場感を醸し出す一方で、棚には科捜研の“お茶の達人”の異名を持つ化学担当・宇佐見裕也(風間トオル)の茶器がさりげなく鎮座し、映像データ担当・涌田亜美(山本ひかる)の机はカラフルな文具やUSBが彩り、ここは紛れもなくあの“科捜研”なのだと感激すら覚える。
そこで繰り広げられるのは、洛北医大の風丘早月教授(若村麻由美)も参加しての、解明された事実を科捜研メンバーと共有するおなじみのシーン。ともすれば型にハマりかねないお約束の展開だが、ホワイトボードを自在に駆使したコミカルな演出と小気味いい会話の応酬で、新鮮味とさすがのあうんの呼吸を見せてくれる。続いて行われた風丘教授による遺体解剖シーンもスムーズに進行し、長い歳月を経て培われたチームワークの良さを実感する。
中尾Pによると、劇場版とはいえ作品作りの精神はドラマ版と変わらない。そこには長年、番組を支持してくれた人たちへの「ファン孝行」の思いがあるという。
中尾Pは「劇場版を作るにあたって、ファンの方がどんなものを観たいのか? ある調査を行ったんです。当初は海外ロケを行うとか、タイムスリップして時代劇にしようとか、レギュラーの誰かが亡くなってしまうとか、劇場版でしか観られない案も出たのですが、ファンの方はそんなことを求めていない。“いつもの科捜研を、ちょっと大きなスケールで観たい”という声が多かった。ならば、いつも以上に“科捜研”をちゃんとやって、そこは裏切らないようにしました」と明かす。
一方で、台本3ページ分のシーンをワンカットでとらえる撮影に挑んだり、クレーンを使ったダイナミックなカメラワークなど、映画館の大スクリーンを意識した映像を取り入れたという。特にこだわったのがロケ地だ。錦市場に先斗町歌舞練場、さらに紅葉の名所として知られる東福寺でまさに絶好の時期を狙って撮影を敢行したという。
幸いにも脚本も撮影そのものもコロナ禍の影響を受けることなく企画通りに進行したという。ただし今回は“未知の細菌”を題材にしていることから、現実を想起させるような描写や展開にならぬよう配慮したという。中尾Pは「“科捜研”を観てその道に進んだとか、逆にドラマを観て犯罪を踏みとどまったという人もいたと聞いています。非常に影響力のある番組ですので、今、コロナ禍を安易に煽ったりしないのが、この番組の責任ではないかと思っています。コロナに関しては、いずれ“科捜研”ならではの切り口で扱えれば」と野望を語った。
まだまだマリコには、活躍してもらわなければならないようだ。(取材・文:中山治美)※榊の字は木へんに神が正式表記
映画『科捜研の女 -劇場版-』は9月3日より全国公開