目指したのは“脱ガンダム”『閃光のハサウェイ』Ξガンダムデザインの裏側
ガンダムシリーズ最新作『機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ』(全国公開中)でメカニカルスーパーバイザーを務めた玄馬宣彦が、メカニカルデザイン・メカニカル総作画監督の中谷誠一と共に、“脱ガンダム”をキーワードに挑んだという、Ξ(クスィー)ガンダムのデザインについて語った。
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『閃光のハサウェイ』は、富野由悠季が1989年に発表した小説の初の映像化となり、『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア』(1988)後の宇宙世紀0105年、アムロ・レイの戦友ブライト・ノアの息子であるハサウェイ・ノアが、地球連邦政府に反旗を翻す姿を描いた三部作の第1部。
ハサウェイが搭乗する主人公機Ξ(クスィー)ガンダムは、26mの頭頂高に、標準より大きな腕部と脚部が相まった、怪物のようなデザインが特徴。ガンダムシミュレーションゲーム「SDガンダム ジージェネレーション」シリーズに登場した際は、小説版のデザイナーでもある森木靖泰の手によってリファインされた同機だが、メカニカルデザインのカトキハジメは、小説版のΞガンダムのデザインを採用した。
「数年前にカトキさんが出されたΞガンダムのフィギュアはゲーム版のデザインに寄っていました。カトキさんも、最初は玩具ベースのデザインをあげられたのですが、ご自身から小説版をリスペクトしたデザインでいきたいと言われて」(玄馬)
「異形」を強調したデザインの過程でスタッフが共有したテーマが“脱ガンダム”。Ξガンダムに対抗する地球連邦軍のガンダム、ペーネロペーの存在もあって決定したテーマだ。玄馬は「ペーネロペーが正統な連邦のガンダムである一方で、Ξガンダムはあくまで“ガンダムもどき”という位置づけです。小説でも、ペーネロペーにコピー品と言われたりもしていたので、今回は“脱ガンダム”でいこうとなりました」と明かす。
しかし、本作のスタッフはガンダムに親しんできた者ばかり。そのなかで脱ガンダムを目指す苦労は並大抵のものではなかった。「それぞれの思うガンダムらしさの違いはありました。カトキさんのデザインを、中谷さんにアニメーション用のデザインに仕上げていただくのですが、中谷さんはアナザー系のガンダムなども幅広く手掛けられてきた方。我々もそれを見てきたので、中谷さんが描くとどんな形でもガンダムに感じられる部分があって。最終的に、一番フラットな目線で見ている村瀬(修功)監督がガンダムっぽいと判断して、直すこともありました。かなり苦労されたうえで現在のデザインになっていきましたね」(玄馬)。
中谷も「最初にガンダムっぽさをなくすというコンセプトをいただいて作業を進めたのですが、まとめる時点で、逆にどうしてもガンダムっぽくなってしまったりするんです。立体としてまとめるとおとなしくなって、かっちりさせようとするとガンダムになったり。そうした部分を調整しながらの作業でしたね」と振り返った。
また、機体胸部のカラーリングは、小説の表紙に描かれた青色ではなく白が採用されている。「デザインを発表した時に『色が違う』というお言葉もいただきました」と振り返る玄馬だが「カトキさんも白に踏み切ることに躊躇されていたのですが、当時の(アニメーション雑誌)『ニュータイプ』で、森木さんが描かれた、白色に塗られたΞガンダムのイラストをカトキさんが見つけたんです。当時の表紙絵は美樹本(晴彦)さんが描かれているんですが、色彩担当の方が、ガンダムに寄せるために胸部を青に塗られたんだと思います。しかし、当時から森木さんのなかに、Ξガンダムは白色というイメージがあったことの裏取りができた。そこでカトキさんも白に踏み切られました」。
公開延期の影響によって変更となったが、実は劇場公開まで、Ξガンダムの姿を伏せることを予定していたという本作。「三部作ということで、第1部にΞガンダムが登場するかしないかも含めて隠す方向で動いていたんです。実際に映画館に行ったら、皆が知っているガンダムっぽくない機体が出てくるということにしたくて。プラモデルが先行したことでなくなりましたけどね」という玄馬。それは何より、本作が映画として完成していることへの自信の表れでもある。「『ガンダムUC』の様にいろいろな機体が登場する作品ではない為、ファンが望んでいた“お祭り”になっていないかもしれません。しかし、ガンダムに固執せず、ひとつひとつの要素を丁寧に描いた、映画として高い水準の作品なったと思っています」。脱却を目指したガンダムの活躍は、シリーズファンの目にどう映るのか。(編集部・入倉功一)