眞栄田郷敦、悩みながら挑む“正解がない”役者業への熱い思い
映画、ドラマへの出演が相次ぎ、若手実力派俳優として躍進中の眞栄田郷敦。1998年、長野オリンピックの金メダル獲得を支えたテストジャンパーたちの実話を描く映画『ヒノマルソウル~舞台裏の英雄たち~』では、逆境を乗り越えてテストジャンプに挑む青年をみずみずしく演じている。「直感ではなく、悩みながら役づくりをしていくタイプ」と“正解”というものがない俳優業にストイックに打ち込む眞栄田が、20代の展望や転機、役者業の一番の醍醐味を明かした。
スキージャンパーを演じるために減量にもトライ
実際にあったテストジャンパーたちの知られざる物語をもとにした本作。テストジャンパーたちにもさまざまな背景、葛藤があり、この事実を知った眞栄田は「胸が熱くなった。もっと伝えたい、広めたいという思いも芽生えた」と前のめりで本作の撮影に飛び込んだ。
眞栄田は、実力派ジャンパーの南川崇を演じた。日曜劇場「ノーサイド・ゲーム」(TBS系・2019)では、がっちりとしたラガーマンにふんしていた彼だが、「ジャンパーを演じるために、食事制限をして体重をだいぶ減らしました。“1日6食”を習慣にしているんですが、その回数は減らさずに、カロリーを減らして。しんどくはありましたが、スキージャンパーがオーバーウエイトだったら、映画を観ている方もその世界に入り込めないはず。見た目の説得力は、役づくりをする上でも大切なことだと思っています」と体づくりにも励んだ。
座長・田中圭の印象は「大黒柱のよう!」
南川は生意気に見えながらも、実はケガのトラウマを抱え、“飛ぶことへの恐怖”を感じている青年だ。眞栄田は「壁にぶつかって、うまく前に進めず、でもそれを認めたくない自分もいる。だからこそ南川は、自分を飾って、大きく見せようとしているんです。おそらく誰もが挫折をしたことがあると思いますし、南川の心の動きには、多くの人が感情移入できる」と分析し、「僕もすごく共感できました」と心を寄せる。
悔しさをバネにして再びスキージャンプと向き合おうとする南川。高校時代、プロの演奏家を目指して音楽に打ち込んでいた眞栄田は、「自分の弱点に向き合いながら、(南川のように)葛藤もバネにして練習をしていた」と語る。音楽の道から、俳優へと足を踏み入れた時期も「ものすごく怖かった」と、前進する上では不安や恐怖と戦うこともあると打ち明ける。
「お芝居もしたことがないし、右も左もわからない状態。ものすごく怖かったです。でも初めての作品では、父も一緒に本読みをしてくれたり、監督やスタッフの方もたくさん支えてくれました。周囲の方々の支えのおかげで、乗り越えられたと思っています」と南川が仲間との絆を力にしていくように、“一人ではない”という心強さが、背中を押してくれた。
本作の撮影現場については「ものすごく一体感がありました」とすばらしいチームワークを感じられた様子。その中心にいたのが、主人公の西方仁也役の田中圭だそうで、「圭さんは、みんなを誘ってご飯に連れて行ってくれるんです。“みんなで”ということをすごく大事にされる方で、圭さんのおかげでみんなが打ち解けることができた。大黒柱がいる感じで、圭さんがいるとすごく安心感があるんです」と述懐。眞栄田は撮影中に20歳を迎えたことで、「圭さんに飲みに連れて行ってもらったんです。この現場中に飲める年齢になることができて、すごくうれしい」と大きな笑顔を見せる。
転機は『小さな恋のうた』
2019年公開の映画『小さな恋のうた』で、俳優デビューを果たした眞栄田。「役者をやっていきたい」と覚悟ができたのも、『小さな恋のうた』のおかげだと語る。「初めて出演した作品で、演技も初めて。楽器の練習も必要となる役どころで、たくさんの苦労がありましたが、公開されて、観客の方から反応をもらえたこともすごくうれしかったです。新しい経験もいろいろとできて、デビュー作が『小さな恋のうた』だったことは、僕の役者人生にとってものすごく大きな意味を持つ」と告白。「現場の経験を重ねるごとに、向上心が芽生えて、もっと上を目指したいという気持ちになっています」と意欲をみなぎらせる。
「何をやっていても、役づくりや仕事につなげて考えてしまう。役者の仕事は“何が正解”ということがないので、どれだけ準備をしたとしても、不安になってしまう」と苦笑いを見せるなど、真っ直ぐで誠実な人柄もなんとも魅力的。「直感でお芝居をされる方もいると思うんですが、僕は深く考えて、悩みながら役づくりをするタイプ。作品が完成して、それが報われたと感じる瞬間が、役者業に感じる一番の醍醐味かもしれません。ドラマの撮影(『レンアイ漫画家』)で、鈴木亮平さんとご一緒させていただいているんですが、亮平さんもたくさん勉強されて、役に臨まれている。亮平さんを見ていると、僕も頑張ろうと励まされます」と作品ごとにたくさんの刺激を受けている。
これからが楽しみな、21歳。「20代は自分の地盤、基礎を固める時期だと思っています。それができてこそ、豊かな30代が迎えられるのかなと。今はたくさん経験を積んで、実力をしっかりつけたい。いろいろな可能性にチャレンジしていきたいです」と力強く語っていた。(取材・文・撮影:成田おり枝)
映画『ヒノマルソウル~舞台裏の英雄たち~』は6月18日より公開