『あの夏のルカ』に色濃い日本のアニメの影響!今までにないピクサー映画に
ディズニー&ピクサーの新作映画『あの夏のルカ』(ディズニープラスにて見放題で独占配信中)のイタリア人監督エンリコ・カサローザがインタビューに応じ、新たなスタイルを生むため、3Dアニメーションに2Dの要素をどう融合させたのかを明かした。
地上の世界に憧れてきたシー・モンスターの少年ルカが、同じシー・モンスターの少年アルベルトと共に正体を隠し、イタリアの港町でまばゆいばかりのひと夏を過ごす姿を描いた本作。カサローザ監督は映画全体を子供の視点で描くことにこだわり、これまでのピクサー映画とは趣を変えた、ノスタルジックで温かさのある独特な世界を作り上げた。
「写実主義にはしたくなかったんだ。この子供の世界には相応しくないと思えてね。コンピューターは水しぶきといった美しい写実的な表現が得意だけれど、僕はあまりにリアルにするのではなく、なるべく“少なく”しようとした。水しぶきだったら、その美しいラインだけを捉えようとしたんだ。その点に関してはちょっと闘いがあったけど(笑)、結果的には、僕たちはたくさんの“不完全さ”を映画に持ち込むことができた。例えば、パステルのテクスチャーの背景とか、絵筆で描いたみたいなルカの大きな虹彩とかね」
「そうすることで、チンクェ・テッレ(モデルとなったイタリア北西部の沿岸地域)のエッセンスを余すところなく取り込め、観客が実際にその場にいるように感じられるものになっていればと願っている。現実の場所だから、写真なら見られるわけだしね。だからそのエッセンスをつかむことで、イタリアへのラブレターのような映画にしたかったんだ」
セットやキャラクターのスタイルだけでなく、キャラクターたちがどう動くかというアニメーションのスタイルにも2Dの要素が取り入れられている。「もっと楽しくするにはどうしたらいいのか? と考えていったんだ。タイミングなどは『未来少年コナン』にインスパイアされている。そうした作品をアニメーターたちにも見せて『ここから僕たちが学べるものはないだろうか?』と考えていったんだ。ワーナー・ブラザースのカートゥーンも参考にした。走るシーンは脚がぼやけてたくさんの足に見えるとか、そういうのをね。これまでの作品とは異なるフィーリングを出すために、そうした要素をどうやったら持ち込めるだろうかと考えるのはとても楽しかった。僕たちは異なる声から、異なる映画を作りたいと思っている。それが見た目としても違うものになっていたら、素晴らしいんじゃないかと思ったんだ」
カサローザ監督は、大の宮崎駿監督ファン。大好きな『紅の豚』の主人公ポルコ・ロッソから取って『あの夏のルカ』の舞台となる町はポルトロッソだし、自身の娘はフィオ(『紅の豚』のヒロインの名前)と名付けている。
「僕が育った1980年代、イタリアには全ての日本のアニメがあった。ロボット物から『キャンディ・キャンディ』『ハイジ』『ルパン三世』までね。『天空の城ラピュタ』や『風の谷のナウシカ』を観た時に、『待って、このスタイルは知っている!』となった(笑)。宮崎監督の作品だったから、僕はこんなにも『ルパン』や『未来少年コナン』が好きだったのか! とね。だから僕は何年にもわたって彼の映画のファン。スタジオジブリで宮崎監督の隣に座って、僕の監督デビュー作『月と少年』を観てもらうという幸運にも恵まれた。彼は、僕のヒーロー。彼は子供の世界に魔法のようなことをした。自然の驚異や子供の視点というものは、僕たちの映画でもインスパイアされた部分。彼がやったような特別なことができるのは、彼の他に誰もいないと思う。彼の細部への配慮や自然への心遣い、それが僕は大好きなんだ。それこそ、僕が捉えたかったもの。特にルカは、地上での経験が全くない子供だから、そのフィーリングとマッチしていると思ったんだ」
本作には、体の表面から水分が取れれば人間に変身できると知ったルカが、勢いよく海面から飛び出してはまた潜り、シー・モンスターから人間、人間からシー・モンスターへと次々と変身するシーンがある。ルカの心からの喜びがひしひしと伝わってくる楽しいシーンだ。しかし、このシーンはカットの危機にあったのだという。
「ピクサーには『このシーンの何がストーリーを前に進めるのか? もし前進させるものがないのなら、そのシーンはカットせよ』という考え方があるんだ。このシーンはストーリーを進めるわけじゃないけど、ただただ楽しいシーンで実際、映画のあらましでもある。アルベルトがルカにジャンプをやって見せて、ルカは『面白い!』と挑戦する。最初は失敗するけど、彼はのみ込みが早いから、学んでマスターするという点でね」
「何度『このシーン要るの? カットすれば?』と言われたか聞いたら、君は驚くだろうね(笑)。確かにドラマとしてはカットできるかもしれないけれど、僕たちは闘って『これは素晴らしいシーンだ』と言い張ったんだ。このシーンが僕に思い出させたのは、細田守監督の『おおかみこどもの雨と雪』のシーン。雪の中を、母親と2人の子供が走る美しいシーンがある。そのシーンにある喜びを思い出したよ。ドラマとしての目的はあまりないからといって、僕たちが常にこのシーンをカットしようとしていたというのは面白いよね(笑)。楽しんでくれてうれしいよ。キープしたかいがあった」と笑っていた。(編集部・市川遥)
映画『あの夏のルカ』はディズニープラスにて見放題で独占配信中